蒲公英 〜癒しと生命力の花〜

自作短編/長編小説を発表するブログです。たまに日本語のことを少しだけ考えてみたり、日記を書いたりします。

スレッジ・チェイサー (23) 

 ――みんな、無事でいろ!
「デジル?」
 目を開けた。
「あ? やば! 第三陣だ!」
 最後の1体となった《パペット》が、空中でスレッジを支えてくれていた。
「とうとう俺とお前だけか。っしゃ! 1発でも多く! 行くぜ」
 その時、はるか上空で3発のミサイルが爆発した。
「あの光……。荷電粒子砲か! やってくれるぜ、デジル」
 《パペット》が巨大な虹色の光球を発生させた。
「すげ。特別製か、お前は」
 そうではなかった。地上で爆発したジェネレーターから漏れ出た反重力フィールドが、急速にネオ・ジップ北部一帯の反重力システムを回復させつつあった。
 それに伴うフィールドの乱れが、一時的に《パペット》の性能を増大させたのだ。
 《パペット》は、2発のミサイルを同時に受け止めた。
「よーし、俺も! うおおお!!」
 スレッジも巨大な光球を発生させる。2発同時に受け止めた。
 さすがに1発だけの時とは違う。スレッジの光球の外側に、爆発のエネルギーが少し漏れた。
 そこに、もう1発落ちてきた。
「なろぉ! 3発くらい、まとめて面倒見てやるぜっ!!」
 予想を上回る閃光と轟音の中、再びスレッジの気が遠くなる。
 スレッジは、破片も残さず爆発炎上した《パペット》に、霞む視線を走らせた。
「ありがとな《パペット》。残り2発……。くそ……」
 気絶するものか。その思いもむなしく、スレッジの身体は落下を始める。しかし今度こそ、彼を支える《パペット》は1体もいない。

 アルファ5は上空を見上げて歯がみした。
「我々は、ただ見ているしかできないのかっ! 彼ひとりに全て任せて!」
 その時、目の前の《アースシェイカー》が膝をつき、倒れ込んだ。
「少尉! アルファ5! 反重力システムが回復しています!」
 先ほど防御フィールドを投擲した兵士がアルファ5に報告した。
「! 彼を救うぞ!」
 アルファ5は自分の車の反重力システムを起動し、スレッジめがけて上空へ飛び上がった。
「いいか。彼の真下でホバリングし、上下反転する。反重力フィールドを彼に照射し、受け止めるぞ」
「しかし、下手をすると我々も彼も地上に激突します」
「他に方法はない!」
 言われた通りに操縦する兵士の視界に、地上に落ちるミサイルが見えた。
 1発は《アースシェイカー》が格納されていた場所に、もう1発は座標0・0・0に。非常に近い場所だ。
「……?」
 1発分の爆発でしかないように感じたのは気のせいか。
「照射!」
 アルファ5が号令した。
 兵士がスイッチを押すと、車の屋根は見る間に地表に吸い込まれそうな勢いで落ちていく。
「だ、だめか」
 地上への激突を覚悟した。しかし。
「……?」
 車は空中に静止している。

「助かったぜ」
 窓から覗き込むスレッジと目が合って、アルファ5は思わず敬礼した。
「いえ。自分たちこそ、助けに来たつもりが逆に助けていただきました」
 事実、地上めがけてわざと加速したような格好となってしまった車を、フィールドの力で静止させたのはスレッジなのだ。
「あんたらが反重力フィールドを浴びせてくれなかったら、俺は気絶したままだったぜ」
 そう言ってスレッジは、今ミサイルが落ちた場所を振り向く。
「うわ!」
 その視線を遮るように、恰幅の良い中年が空を泳いでくる。
「ど、どけっ! こっちは急に曲がれないんだっ!」
「ペイジ!」
 再び上下反転し、車の床を地上に向けたアルファ5は、拳銃でペイジ中佐の反重力グライダーを狙撃した。
「ばか、やめっ! そこはフィールドの外に剥き出しなんだぞ!」
 慌てる中佐を無視して発砲。
 2発、3発。
 アルファ5の銃弾がペイジ中佐のグライダーに命中した。
「おちるー!」
 ペイジ中佐の醜態を見てにやりと笑ったスレッジは、両手で作ったフィールドの塊をペイジ中佐に投げつけた。
 ペイジ中佐の身体が静止するのを見て、アルファ5が言った。
「優しいんですね、スレッジさん」
「そうかい?」
 スレッジが片手を真上に上げると、ペイジ中佐の身体が回転し始めた。
「わ、わ、くそぉ!」
 反重力グライダーの出力を最高に設定したペイジ中佐だったが、グライダーが発光するだけで回転を止めることが出来ない。
 やがて、発光して回転したまま上空へと飛び上がっていく。
「は、は……」
 内心でつい今し方の発言を取り消すアルファ5だった。

 14キロ離れた《ポメラニアン》の中で、モニタにかじりついていたデジルは発光体を確認した。
 ミサイルにしては少し温度が低いので、光学照準装置に付属の画像解析をかける。
 金属の細い管を確認。武器検索――指向性散弾。
「地雷を投げるとは変わっているが……、撃ち落としてやる!」
 照準――ファイヤー!
 目標消滅。

*      *      *


「おー。いい腕してんじゃん、デジル」
 再び荷電粒子砲の光を見届けたスレッジは、座標0・0・0へと向かう。
 飛び去っていくスレッジを、中央情報局と陸軍情報部の両軍兵士たちは敬礼をして見送った。

「ミリィ、ミリィ! 無事だよな?」
 地上に到着したスレッジは、ぼろぼろになった装甲車の中で気絶している男女を見た。
「おい……、ミリィ!」
 カナと、彼女に肩を借りて上体を起こしているマーク以外、起きている者はいない。
 だが、起きているふたりにもおよそ表情というものがない。
「なんだよ」
 認めない。俺が無事なのに。
 ミリィ。いた。横になっている。
 手を触れる。頬をなでる。
「体温が……」
 思い出した。フィールドで身を包んだままだ。これじゃ体温を感じるわけがない。
 フィールドを解く。
 もう一度触れようとした、その手を――
「スレーッジ!」
 その手をすり抜けるようにして飛び起きたミリィは、スレッジの胸に飛び込んできた。
 続いて、ゲイリー、ユキ、マーチンの3人が起きあがる。
「悪い冗談はよせ! この、お子様が……」
「あれ? スレッジ泣いてる? うれしい♪」
 ミリィのぬくもりを心地良く感じたスレッジは、最早ミリィのいたずらを叱る気にはなれなかった。
 ――子どもなのは俺の方か。完敗だ、くそ。

「よーお、スレッジ! お疲れさん♪」
「お、3万ローエンが来た」
 スービィはスレッジの肩に手を置き、低い声で言った。
「ミリィのことはお前さんに任せるが、最後まで責任をとるんだぞ」
「は? 何言って――」
「ミリィは俺の姪。まあ養子だから俺の子だと言ってもいいがな。大事な子だ。3万ローエン相当の、な♪」
 ぽかんとするスレッジ。
「スービィてめえ!」
 叫びながら“まあいいか”と思ってしまう自分に、先ほどとは別種の敗北感を感じるスレッジだった。
 スービィはマークに向かって言った。
「マーク。この先、お前さんにも働いてもらうからな」
「だけどぼくは、あなたたちの邪魔をしました。手足もこの通り、もう動きませんし」
「だけどはなし。お前さんも俺の甥だ。伯父の言うことを聞け」
 マークの脳裏に、赤毛の双子を抱き上げる上等なスーツを着た人物の映像が甦る。スービィの本質に触れたような気がしたマークは、はにかんで小さく返事をした。
「……はい」
 そこでちらりと後ろを振り向き、やや意地悪そうな笑みを口端に張り付けたスービィが付け加えた。
「手足のことなら心配するな。あっちの目付きの悪いお兄さんが、金より女の子を選んだんでな。3万ローエンもあれば薬無しで両手と両足を動くようにしてやれるぜ」
「てめえ、マジで腹立つ! 人をロリコンみたいに」
 喚くスレッジの腕に両腕を絡めたミリィが、彼を見上げる。
「ん、違うの? でも、お金じゃなくってそこに突っ込むあたりがスレッジらしくて好き♪」
 口に手を当てくすくす笑うカナのとなりで、ゲイリーは腹を捩らせ豪快に笑っている。
 スレッジは口をぱくぱくさせたが、言い返す気力を失って嘆息した。

 夕闇迫るネオ・ジップの空は、激戦の名残を感じさせることなくからりと晴れ渡っていた。

〜「スレッジ・チェイサー」 完〜




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( 2008/07/12 00:02 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(4)

スレッジ・チェイサー (22) 

 デジルは、焦る気持ちをねじふせようとしては自分の禿頭をなでつける。通信機の前に座ってはいるがじっとしていられない。気付くと貧乏揺すりをしていた。
「つながったぜ、デジル。先方さんと直接話しな」
 通信機の向こうでスービィが黙ると、通信の相手が切り替わった。新しい相手がこちらに話を促す短い声を寄越す。デジルは早口でまくしたてた。
「時間がないから単刀直入に言う! 《E》は最大で30発前後の超小型ミサイルを積んでる可能性がある――まだ10発くらい残ってるかもしれないんだ! 俺の船は現場に一番近い空域にいる! 違法は承知で荷電粒子砲も整備済みだ! 文句は後で聞くから俺に撃たせろ、俺なら迎撃できるっ!」
 通信相手からの遅滞のない、短い返事に満足したデジルは、返事をしながら早速準備に取りかかる。
「感謝する、長官!」
 《ポメラニアン》のセンサーが熱源を確認。《アースシェイカー》から10発のミサイルが打ち上げられた。第三陣が発射されたのだ。
 火気管制コンピュータ、起動。自動照準システム、オン。
「死ぬな、スレッジ! まさかミサイルを食い止めるとは。それ以上無理するんじゃない」
 フォースフィールド、オン。目標捕捉!
「みんな、無事でいろ!」
 ――ファイヤー!!

 光速の99%にまで加速された荷電粒子が射出される。
 大気と反応して発光した光の筋は、発射した瞬間にはおよそ14キロ離れた目標に到達していた。
 発射の衝撃でわずかに傾く《ポメラニアン》の中、デジルはモニタにかじりついた。
「3発――。くそ、たったの3発か! すまん、スレッジ!」
 実際に試射したこともない荷電粒子砲を初めて使い、14キロ離れた場所から超小型ミサイルを10発中3発迎撃できただけでも実は凄いことなのだが、デジルはそれを喜ぶ気には全くなれなかった。
「それでも!」
 やれることは全てやっておきたい。万が一の第四陣発射に備え、デジルは再射撃のスタンバイをはじめた。

*      *      *


「ああああ!!」
 絶叫するカナの身体を虹色の光球が包み込む。
 一瞬が数倍に引き延ばされる感覚の中、彼女の意識がミリィとつながった。
(カナさん、よかった! スービィの勘が当たったよ!)
(……? 誰?)
(僕、ミリィ。カナさんも《クワッシュ・スーツ》を着られる人だったんだ)
(《クワッシュ・スーツ》?)
(あとで説明する。それより、そっちにミサイルが落ちてくよ! 僕も力を貸すから集中して!)
(そんなこと言われても!)
(大丈夫。僕の真似をしてみて)
 止める。包み込む。吸い込む。追い出す。
 言葉にすると、そんなイメージ。理解できたわけではないが、カナはミリィの真似をした。
 虹色の光球が膨れ上がる。
「なんだ、これはっ!」
 カナに掴みかかろうとしたペイジ中佐の手が押し返される。
 虹色の輝きはフィールドを身に纏わぬ者たちを飲み込み、ペイジ中佐を押し出す。
 中佐が装甲車のドアに押し付けられ、扉が開いた刹那、ミサイルが着弾した。
 荒れ狂う轟音と閃光。
 しかし、カナとミリィは集中し続けた。
 破壊的なエネルギーの大部分が、虚空へと消えていく。

「ミサイルを防いだだとぉっ!?」
 装甲が粉々に崩れ、剥き出しとなった車内の居住スペースには無傷の5人が横たわっているのが見える。
 しかし、10メートルほど吹き飛ばされたペイジ中佐もまた無傷だった。
「ふ。しかし、私の新型個人用フィールドは計算以上に鉄壁の防御力だな」
 中佐は装甲車へと近付いていく。
「う……」
 突然フィールドを身に纏い、次の瞬間にはミサイルの直撃。
 軽い目眩に襲われながら、カナはまだ気を失ってはいなかった。
「あうっ!」
 ペイジ中佐はカナの喉を掴んだ。
「苦しいか……。貴様もフィールドを身に纏ったようだが、フィールド同士を干渉させれば、フィールドを中和することも可能なのだ!」
 ペイジ中佐のフィールドは全身から右手へと集まっていく。
 ペイジ中佐の言う通り、掴まれた瞬間には何も感じなかったが、徐々に息苦しくなってきた。カナの爪先が地面から離れる。中佐に軽々と持ち上げられてしまったのだ。
「は、なし……て」
 ほとんど声にならない。ペイジ中佐の指が喉に食い込む。フィールドが中和され始めているのだ。
 次の瞬間――
「ぐぼわっ!」
 ペイジ中佐は奇妙な声を上げて倒れた。ようやく解放されたカナは、空気を貪り吸った。
「きもちわるー。へんなとこ蹴っちゃったよぅ!」
 ミリィにへんなとこを蹴られた中佐は巨体を地面に横たえたまま抗議の眼差しを向けるが、しばらく声を出せそうもない様子だ。なにしろ右腕以外のフィールドは薄くなっていたのだ。ミリィの蹴りはかなり効いた。
 装甲車の居住空間に設置されていた《アースシェイカー》を動かすためのトランスジェネレーターは、家庭用冷蔵庫のような外見で、高さは1メートル程度だった。白光が漏れるその様子は、いまにも爆発しそうだ。
「ミリィ! カナさん! 気をつけて、ジェネレーター、いつ爆発してもおかしくない!」
 手足がろくに動かせない様子のマークが、地面を這い進んできてふたりに警告した。
「な! 何があったの、マーク!?」
 さっき出会ったばかりの少年がぼろぼろになっている。カナは驚いて駆け寄る。
「わはははは。ジェネレーターが普通に止まる分には問題ないが、もし爆発すればどうなるかな。42年ぶりの激震で、このあたりは再び壊滅的な被害を被るかもなっ!」
「ペイジ……」
「貴様、子どもの分際で親を呼び捨てか。私の薬がなければ手足も動かんというのに」
「親だと? 黙れ、4歳の僕に何も告げずサイボーグ手術を施した狂人が! こんな手足、動かなくても結構だ!」
「では、私が持っているこの薬、貴様にはもう必要ないな」
 ペイジ中佐はふらふらと立ち上がり、懐からアンプルを取り出すと地面に叩きつけた。

 その瞬間、上空で虹色の光球が輝いた。
「スレッジ? どうしよう、スレッジが!」
 ミリィが軽くパニックを起こす。
 その場の全員が上空を注目する中、ペイジは隠し持っていた手榴弾をジェネレーターに投げつけた。
「しまっ――! ミリィ、カナ! 集中して!」
 なんとかなるとは思えない。だが他に方法はない。
 マークの叫び声を後目に、ペイジ中佐は走り出した。
 背から傘の骨組みのような複数の金属棒が張り出す。
「個人用反重力グライダーだ。ジェネレーターが爆発したらどうなるか未知数だが、少なくとも反重力システムは回復する」
 ペイジ中佐が背に仕込んでおいた反重力グライダーは、計算上は海外まで飛んでいくことも可能なのだ。
 ――閃光、轟音。
 手榴弾が爆発した。
 同時に、再び虹色の光球が拡がっていく。ぼろぼろの装甲車を中心にして。

(23)に続く



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( 2008/07/11 08:24 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(0)

スレッジ・チェイサー (21) 

 ペイジ中佐は、もう撃つつもりがないのか銃口をだらりと下げた。
「残念だったな。全員終わりだ」
 どうせ装甲車から逃げたところで、合計30発のミサイルが降り注ぐ。《E》の背中には、それだけの量の超小型ミサイルを搭載しているのだ。
 個人用フィールドの持続時間がごく短いことは、ユキから聞いて知っている。
 ゲイリーがカナをかばい、光線銃を撃つ。
 しかし、拡散。
「私が装備している個人用フィールドは特別製だ。時間制限の短い中央情報局の装備とはモノが違うよ」
 余裕たっぷりに言い放つペイジ中佐は、銃を床に捨ててしまった。中佐はアルファ4を撃った直後に個人用フィールドを起動したのだ。
「銃はもう使わん。君たちを撃つには、私もフィールドを解かねばならんからな。それより、このモニタを見たまえ。遅くともあと4分で、この辺り一帯は全滅だ。私だけは生き残る可能性があるがね」
 5人が一斉にペイジ中佐を撃つ。しかし、いずれも弾かれてしまう。
「まだわからんのかね。無駄だよ」
 言いながらモニタを見ていたペイジ中佐は、わずかに眉をひそめた。
「貴様、細工したな」
 助手席にゆっくりと歩いていったペイジ中佐は、下士官が担当していた操作パネルに手をかざす。
 すると、マークが直立する様子を映していたモニタが「現在の状況」に切り替わる。
 そこには、眠るマークの頭を膝に乗せたミリィが映っていた。
「ふん。まあよい。もし私が生き残ることができれば、この個人用フィールドを手土産に他国の諜報機関に拾ってもらうことも可能だ。いや、別にテロ組織でも構わんがな」
「ぐあっ!」
 ペイジ中佐が下士官の肩に手を置くと、下士官は気絶してしまった。おそらくフィールドの影響だろう。中央情報局のそれより強力なフィールドは、フィールドの内側を完璧に護るのと同時に、外側に対しては強力な武器にもなるようだ。
 ペイジ中佐は続いてゲイリーとユキにも触れた。
 ふたりともあっという間に気絶した。
「くそっ!」
 マーチンが“荷物”の蓋を開けるのと、彼の肩にペイジ中佐が触れるのが同時だった。
「く……っ!」
「ああああ!!」
 気絶するマーチンの呻き声を掻き消すほどのカナの絶叫。後退りしていたカナに、ペイジ中佐の手はまだ触れてはいない。

 その瞬間、1発のミサイルが彼らの乗る装甲車を直撃した――

*      *      *


「ミサイル10発だとお!!」
 《アースシェイカー》の真上に到達したスレッジは、上空で反転し地上に降ってくる光弾を睨み据えた。
「くそ、俺ひとりじゃ足りねえ!」
 スレッジは飛んでくる途中、《アースシェイカー》格納庫より規模が小さいものの、それと同様に偽装された格納庫らしき場所を2箇所見つけていた。
 それらに格納されているものと言えば。
「――来い、《パペット》!」

 ――ギン!
 《パペット》のカメラアイに光が灯る。
 《P》隊・A小隊、B小隊の《パペット》が同時に起きあがる。
 ベータ3は、自分の居るC小隊格納庫のモニタで、その様子を見て通信機に怒鳴りつけた。A小隊、B小隊の担当者はベータ9だ。
「ベータ9! ベータ3だ! なぜ起動した!? 命令はまだだろうがっ!」
「ベータ3! 《P》が勝手に起動してます、止められません!!」
 慌てふためいた声で応答する部下に、ベータ3はさらに怒鳴りつける。
「ハードウエアキーを切れ!」
「切るどころか、まだ入れてもいないんですっ!!」
 自分の格納庫から音がする。
 おそるおそる振り向くと、C小隊も起動していた。
 ベータ3は仰天した。こちらも、ハードウエアキーを入れていないのに。
 それどころか。
「と、飛んだ!? 一体、何が起きていやがるんだっ!?」

 スレッジのまわりに合計18体の《パペット》が集まり、滞空している。
「俺たちでミサイルを受け止める! いいか、撃墜されても地上に落とすんじゃねえぞ!」
 スレッジの真上に1発落ちてきた。
「おおおお!!」
 虹色に輝く光が拡がり、ミサイルを受け止め、包み込む。
「ぬあああああ!!」
 虹色の光が消滅。爆発のエネルギーごと、虚空に消え去ったのだ。
「く……」
 一瞬気が遠くなり、自由落下しかけたスレッジを1体の《パペット》が受け止める。
「お前は自分の仕事をしろっ!」
 上空に、虹色に輝く複数の光の花が咲く。
 8体の《パペット》がミサイルを受け止めた。
 彼らはスレッジのようにはできない。
 例外なく、上空で《パペット》ごと爆発炎上した。しかし、いずれの爆発もミサイルの破壊力から考えると幾分小規模なものに過ぎなかった。
 10発目が地上に落ちる。
「しまった!」
 それは、非常時のミサイル攻撃の際には必ず1発はそこに落ちるよう、ペイジ中佐があらかじめプログラムさせておいた座標だった。
 ペイジ中佐が乗る装甲車、座標0・0・0。
 目映い閃光と共に地響きのような爆発音が轟く。
 しかしスレッジには、爆発地点に虹色の光球が出現し、ミサイルの爆発を最小限に抑え込んでいる様子に気付く余裕はない。

 ――ドドドドド!
「!」
 ミサイルの発射音。《アースシェイカー》だ。
 地上に構ってはいられない。
 心臓を氷の塊で鷲掴みされたような心地で振り向いたスレッジは、見た。
 第二陣、今回も10発のミサイルが《アースシェイカー》から発射されるのを。
「何発積んでいやがるっ!」
 光弾が反転して降ってくる。
 再び咲き乱れる虹色の花。
 9体の《パペット》が“身体”を張ってミサイルを迎撃するのを横目に、10発目をスレッジが止めた。
「うおおおおお!!!」
 ――まだだ。まだ、気絶するわけには……
 耳鳴りがする。視界が霞む。
 必死に意識をつなぎとめようとする意思とは裏腹に、スレッジの世界は暗転した。

 そして、第三陣のミサイル10発が発射された。

(22)に続く



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( 2008/07/10 19:58 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(0)

スレッジ・チェイサー (20) 

 ペイジ中佐はにこやかに部下を出迎えた。
「よくやったアルファ6。貴官の働きにより我が陸軍情報部は一枚岩の組織となった」
「はっ!」
 マーチンが敬礼を返す。
 もうあきらめてしまったのか、ユキは能面のような無表情で一言も言葉を発しない。
 ユキと同様に、カナとゲイリーも後ろ手に手錠をかけられていた。
 3人の背を押すようにして、マーチンを最後尾にして全員が装甲車に乗り込んだ。
 装甲車はそれなりに大きな車輌だが、あらかじめアルファ4と助手席の兵士が乗っているため、合計で7人もの人間が乗り込んだ計算になるが、冷房が効いており暑苦しくはない。
 だが、カナは不快感もあらわに吐き捨てた。
「ペイジ中佐。これは何のつもり? 笑えない冗談ね」
 ペイジ中佐は底冷えのする光を湛えた目を細め、口端を吊り上げてにやりと笑っただけだった。
「待てよ! 俺たちをどうする気だ!? “荷物”さえ持ってくれば自由の身だと聞いたから、この通り持ってきたじゃないか!」
 マーチンが脇に抱える“荷物”を顎で示しながらゲイリーが大声を張り上げる。
「少なくともカナは無関係だ! 今すぐ放してやってくれ!」
「このネオ・ジップに住んでいながら《E》と無関係な人なんていませんよ。ノイルさん、ウォーレスさん」
 ペイジ中佐はあくまでも穏やかな口調で冷酷に言い放つ。
「ノイルさんには罪をかぶっていただきますが、同時に《E》のリモートユニット開発者としての名誉もあなたのもの。良い意味でも、歴史に名を刻むことになりますよ」
「ふざけるな……。そして陸軍には一切キズがつかないというわけか」
 ペイジ中佐はゲイリーを無視し、ユキの正面へと移動した。
「コーエン少尉。いや、中尉か。中央情報局としても、表立って私を逮捕なり書類送検なりするには準備不足だったと見える。君のような末端のスパイしか送り込めなかったのが何よりの証拠だ」
「すでに長官は、あなたの行動を完全に把握している。茶番劇は早々に止めた方が身のためだ」
 ユキはペイジ中佐を真正面から睨み据え、一息に言い放った。
 直後、鈍い打擲音に驚いたカナがユキを見ると、右手を振りきったペイジ中佐と、左頬を赤く腫らしたユキの姿が目に入った。
「ユキさん!」
「バカめ。私に手を出せば、陸軍だけでなく、空軍と海軍の参謀クラスも何人か敵に回すことになるぞ。第一、私とクリント重工のパイプを失うことは、全軍にとって途轍もない損失なのだ。それがわからぬ長官ではあるまい」
 張られた頬をペイジ中佐に向けたまま床に視線を落とすユキを見て、中佐はやや満足そうに付け加えた。
「君たちの命は今日までだが、せめて寂しくないように3人一緒に葬ってやろう」
 その言葉を聞いたユキは、にやりと笑ってペイジ中佐を見上げた。そして告げる。
「断る!」
 それを合図に、カナ、ゲイリー、ユキの3人がペイジ中佐に銃を向けた。手錠はかかっていない。
「動くなっ!」
 運転席から後ろの様子を見ていたアルファ4はすかさず銃を構えた。
 だが、動けなくなったのはアルファ4だった。彼はあっさりと銃を捨てた。
 助手席の兵士とマーチンが同時に、アルファ4の頭部に銃を突きつけたのだ。
「デービス上等兵! 貴様等! これは何のつもりかっ!?」
 目を見開き唾を飛ばしながら喚くペイジ中佐に、マーチンが冷たく答えた。
「中央情報局を甘く見ないことです、ペイジ中佐。まあ、準備不足だったことは認めますがね。なにしろ、中佐の仰る参謀クラスの方々は、中佐が何をなさっているかよくわからず、困っていらっしゃったようでしてね。我々に相談に来られたのですよ」
 それについてはそれなりに裏工作があり、ぎりぎりで重い腰を上げさせたのだが、マーチンはそれを正直に告げるつもりはさらさらない。
「な……んだとっ」
「ああ、それから。クリント重工の重役さんにも話を伺ったのですが、あなたの注文を断ると社会的に抹殺されるから断れなかった……と」
 ペイジ中佐の顔は、今にも湯気が出そうなほど赤くなった。
「嘘をつけ! あのタヌキ常務がっ!」
「はて。クリント重工の常務ですか? ああ、自分のギャンブルの損失を会社のお金で補填して今日付けで懲戒解雇された役員さん、たしかそんな肩書でしたね。今日のニュース、ほとんど反重力システムのダウンと昨夜の突然のテロばっかりだったんで印象の薄いニュースになってましたけど」
 準備不足などではない。ペイジ中佐はここにきてようやく、追いつめられたのは自分だということを知った。
「では、作戦は中止ですね!」
 いくぶんうれしそうにアルファ4が言い、通信機を操作した。
「ベータ2! アルファ4だ! 作戦中止! 繰り返す、作戦中――」
 ――パァン!
 早撃ちだった。ペイジ中佐は、その体格と弛緩した様子からは想像もつかない早業で、銃を抜いた瞬間にアルファ4の頭部を撃ち抜いた。光線銃ではなく、火薬式の銃だ。
 すかさずユキがペイジ中佐を撃ったが、彼女の光線銃はペイジ中佐の身体に届く前に拡散した。
「個人用フィールド!?」
「ふ。中央情報局だけの装備だと思ったか」
 ペイジ中佐を除く、その場の誰も知らなかった。
 ペイジ中佐とアルファ4、そして《E》のオペレータであるベータ2。その3人だけで事前に打ち合わせた対応マニュアルがあったことを。

*      *      *


「――銃声だ。非常事態を確認。マニュアルEを実行」
 通信機を切り、ベータ2はボタンの保護ケースを外した。
 ひとつ深呼吸して、ボタンを押した。《アースシェイカー》に搭載したミサイルの発射ボタンを。
 モニターに、第一陣のミサイル群が真上に発射された映像が映る。
 ふたつめ。みっつめ。
 全部で3つのボタンを押した。今から2分間隔で、第二陣、第三陣のミサイルが降り注ぐ。
 このネオ・ジップ北部一帯を何もかも無に帰する量のミサイルが。
「ネオ・ジップ陸軍、万歳」
 ――パァン!

(21)に続く



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( 2008/07/09 17:34 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(4)

スレッジ・チェイサー (19) 

 陸軍情報部のデルタ隊が、ユキに代わって指揮を執る中央情報局特務小隊の攻撃部隊と接触し、交戦状態に入った。
 装甲車を擁するデルタ隊の守りは厚く、特務小隊の火力をもってしてもガンマ隊のように簡単に蹴散らすことはできずにいた。
 そこへ、《アースシェイカー》が咆吼と共に近付いていく。
 デルタ隊および特務小隊の兵士たちが異変に気付いた時には、《アースシェイカー》はすでに駆け足での移動を開始していた。

 ――グワアオオオ!

 身長17メートルの巨体がジャンプした。
 着地したのはなぜかデルタ隊のど真ん中、装甲車の真上だった。
 銃弾に耐える堅牢さを誇る装甲車が、まるで空っぽの段ボールを潰すかのようにあっけなく潰れ、爆発炎上した。
「うわ、うわあああ!!」
 敵も味方も関係なく、その場の全員の攻撃が《アースシェイカー》に集中した。
 装甲車には指揮官が乗っていたのだろうか。特に陸軍の乱れ方はひどかった。
「落ち着け! こいつは外付けユニットで動いているんだろうっ!」
 ユキの部下、アルファ5のコードネームで呼ばれる特務小隊副隊長が車外スピーカーを使い、敵にも聞こえるように指示を出す。
「陸軍兵士に告ぐ。巨人は共通の敵である。自衛のため、現在ただいまより共同戦線を張る。ついては暫定的に本官の指示に従え! 総員! 関節を狙え! 陸軍は右膝! 我々は左膝を狙うっ!」
 さすがに鍛え抜かれた兵士たちである。しっかりした指揮官さえいれば、それまでの腰が引けた闇雲な攻撃から、いつもの統率された攻撃へと瞬時に切り替わる。
 《アースシェイカー》の各関節付近で飛び散る火花。しかし、動きを止めることができない。どうやらリモートユニット自体もフィールドの力で護られているらしく、メタルジャケット弾の直撃を食い止められてしまうのだ。
「我々の防御フィールドを巨人の関節にぶつける! 陸軍は援護せよ!」
 アルファ5は、防御フィールドでリモートユニットのフィールドを中和することを思いついたのだ。ただし、一度も試したことがないので、うまくいくかどうか確証はない。
 部下に防御フィールド発生装置を持たせたアルファ5は、部下が《アースシェイカー》の右膝を狙いやすくするために指示を飛ばす。
「左足首と左肩に攻撃を集中! 総員! 巨人の左半身に移動せよ!」
 案の定、《アースシェイカー》のオペレータは左に集まる兵士たちを潰すことに神経を集中させたらしい。ややあわてたように左を向こうとする《アースシェイカー》の動きは、遠隔操作の限界を感じさせた。
 フィールド発生装置を投擲するために身構えた兵士の頭上、投げれば届く位置まで巨人の右膝が迫ってきた。
「狙い――構え! 投擲ぃ!」
 兵士が投げた装置は正確に巨人の膝に装着されたユニットを直撃した。
 目に見える反応はないが、運が良ければフィールドが中和されたかもしれない。
「総員! 巨人の右膝に攻撃を集中!」
 《アースシェイカー》の膝から飛び散る火花が、膝を護っていたはずのフィールドが消滅したことを告げていた。
 ――いける!
 アルファ5が確信した瞬間、《アースシェイカー》は直立姿勢をとり、両腕を胸の前で交差させた。
「な、なんだ!?」
 《アースシェイカー》の背から、幾筋かの光が飛び出した。
 それらは上空で反転すると、こちらへ雨のように降り注ごうとしている。
 《アースシェイカー》の背からたなびく煙の意味するところは――
「ペイジめ! 《アースシェイカー》にミサイルまで積んでいやがったか……」
 ――小隊長。あなただけでも、どうかご無事で。
 アルファ5は万策尽きたことを知った。

*      *      *


 《パペット》が左腕を振り下ろす。
 光を反射する金属の輝きに眼を細めたマークは、戦闘用《パペット》が腕の先端に鋭いナイフ状の爪を備えていることを知った。
 その場に尻餅をついた姿勢のまま、反射的に右腕で受け止めると――
「ぐあああ!!」
 マークの右腕から、再び緑色の液体が飛び散る。
 フィールドが消えたのは、右足だけではなかったようだ。
 右足と右腕を負傷したマークは、痛みに顔をしかめながら、しかし動く気力を失ったかのように放心した呟きを漏らす。
「う……。異星人は、僕の方だったのか……」
 再び、《パペット》がマークを攻撃するべく、右腕を振り上げる。
「何してる、ミリィ! 助けるぞ!」
 口に手を当て立ちつくしていたミリィは、スレッジの一言で我に返ったように動く。
「う、うん!」
 ミリィが《パペット》の右腕を掴む。
 動きの止まった《パペット》の腹に、スレッジがフィールドを叩き込んだ。
 がらがらと崩れ落ちる《パペット》には目もくれず、スレッジはミリィの左腕の傷を覗き込んだ。
「見せてみろ」
「あぁ、平気だから♪」
 スレッジがミリィの左腕を掴む。
「い……っ!」
 傷は浅い。少し出血――彼女の方は赤色だ――しているが、フィールドが完全にやぶられたわけではないようで、ほんのかすり傷だ。スレッジはミリィの傷の上に右手を置き、目を閉じて集中した。
「すご……。治った」
「自信はなかったけどな。多分できるんじゃないかと思った。……次、マークな」
 座り込むマークを、スレッジは見下ろした。
「は? 何言ってる? 僕はあんたたちを……」
「黙ってろ。お前はきっと騙されていただけだ」
 マークは自分の怪我を見下ろす。
「異星人は、僕の方だった。じゃあ、僕の記憶にある事故の原因は、僕……」
「悪いとは思ったがお前の身体を透視した。お前の両手と両足は、機械とはちょっと違うが、人工的なものだ」
「――?」
 マークは口を開けたが、声にならなかった。
「多分、治せる」
 ミリィの時と同じように、マークの傷に手を置いたスレッジ。ほどなく、マークの傷口は塞がった。
 立ち上がろうとしたマークは、転んでしまった。
「く……。薬が切れたようだ。たった3時間しか経ってないのに……」
 どうやら、マークは自力で手足を動かせないようだ。
「ミリィ。ここでマークを見ててやってくれ」
「うん。スレッジは?」
「兵士たちがやばい。《アースシェイカー》を追う!」
 言うが早いか、スレッジは空中に飛び上がり、文字通り飛び去っていく。
「スレッジすごいよ。スービィに言われた通り、何も説明してあげてないのに」
 ふと見下ろすと、マークは寝息を立てていた。
 ミリィはマークの頭を膝に乗せ、彼の髪に手を置いて呟いた。
「おかえり。僕の弟……」

(20)に続く



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( 2008/07/08 19:59 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(2)
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