ヒロシくんの家は、大きなガレージのある一戸建ての家だった。
新築らしく、壁はぴかぴかで、屋根には朝日ソーラーがきらきらと光っていた。
「すっげぇ〜!」
ヒロシくんの家に呼ばれたのはぼくを合わせて5人。そのだれもが感嘆の声を上げた。
「いらっしゃい」
はじめにぼくらに声を掛けてきたのは、ヒロシくんのお父さんだった。ガレージで、車の洗車をしていた。
「あ、どうも。こんにちは」
ぼくがまず頭を下げると、みんなも礼儀正しくおじぎをした。
なんだか、理由も分からず緊張してしまう。
「ヒロシの友達だね。大阪に引っ越してきて、ヒロシが家に友達を呼んだのは初めてだよ。ゆっくりしていってくれ」
そう言うと、ヒロシくんのお父さんはにっこりと優しそうな笑顔を見せ、ぼくらに軽くおじぎをした。
こんな時、ぼくら子供はどうにもリアクションに困ってしまう。特にぼくは緊張してカチコチになってしまっていた。
「ああ。自転車なら、裏にでも止めたらいいよ。スペースがあるから」
そう言われて指差された向こうには、なんと芝生が広がっていた。
ぼくは生まれて初めて、庭付きの家に足を踏み入れた。
胸がドキドキしてくる。
ぼくらが自転車を止めたころ、玄関からきれいな女の人がでてきた。
「あら、いらっしゃい♪」
「こんにちは!」
最初お姉さんとも思ったけど、どうやらお母さんのようだった。
どうやら、お化粧しているらしい。
ぼくは休みの日に、どこにも出かけないのにお化粧している母親がこの世にいるとは思ってもいなかった。
「どうぞ」
にこにこしながら、家の中に案内してくれる。
玄関ではヒロシくんが出迎えてくれた。
「やあ」
ヒロシくんも緊張しているのか、さっと手のひらを見せてさっと戻してしまった。
「よう」
大きな声であいさつすると、ヒロシくんは嬉しそうにうなづいた。
* * *
それから、ぼくらはヒロシくんの部屋に案内された。
そこでまた、驚かされた。
ヒロシくんの部屋は、とても広くてきれいだった。
「すっげえ!望遠鏡がある!本格的やん!」
「わあ、これ、パーフェクトガンダムやん!実物初めて見たわ」
「ドラえもんのコミック、全巻揃ってるやん」
「テレビ、でっけえ〜!・・・でも、ここにあったら、父ちゃんとか見れないんちゃうん?」
「あ、うち、テレビ2台あるから・・・」
「ええええええ!!!?」
みんな、大騒ぎだった。
見るもの、すべて珍しかった。
と、その時、部屋をノックする音がした。
「ヒロシ。入るわね?」
「あ、うん」
するとヒロシくんのお母さんが、お盆を持って部屋に入ってきた。
そしてそのお盆には、人数分のジュースと、お菓子入れ。
友達の家に遊びにいって、こんなにもてなされたのは初めてだった。状況に慣れてないせいもあって、お礼が口から出るまで時間がかかってしまった。
「それじゃ、ごゆっくりね」
ヒロシくんのお母さんはそういって、早々に立ち去っていった。
驚きの連続に呆然とするぼくをよそに、ヒロシくんはファミコンの用意を始めた。
「おおっ!これがファミコンかぁ」
みんなの目はすぐに釘付けになった。
「ほら、2人で遊べるゲームもあるんだよ?・・・ぼくは一人っ子だから、ずっと一人でしかやったことなかったけど、一度やってみたかったんだ」
ヒロシはそう言って、すごくいい笑顔でコントローラーを差し出した。
こんな笑顔、学校では一度も見せたことがないくらいの。
嬉しそうだった。
きっと、ずっと寂しかったんどろうと思う。
知らない土地に来て、うまくなじめなくって。どうしていいのか分からない毎日。
きっかけはどうあれ、遊んでくれる友達ができた。そのことが、難しい理屈抜きにして嬉しいんだろう。
それからぼくら交代交代でゲームして、しばらくして飽きたら、ヒロシくんと少しおしゃべりをした。
特に、ぼくらが行った事のない場所・・・東京の話は面白かった。習慣などがぜんぜん違うらしい。食べ物も、ぼくらがいつも当たり前に食べている食べ物が東京にはなかったりして驚いたり、それから星の話をしたり、テレビまんがの話をしたり、今まであまり話したことなかった分、話題はつきなかった。
そして、あっという間に時間は過ぎていった。
「また遊びに来てあげてね」
そう笑顔で見送ってくれるヒロシくんのお母さんと、ヒロシくん。
あれだけお金持ちなのにそれを鼻に掛けたような所がなくて、しゃべってみれば意外に気さくでいい奴だった。
それに、お菓子を出してくれたヒロシくんのお母さん。いろんな物があるヒロシくんの部屋。
子供ながらに打算が働いた。・・・か、どうかは定かではないが。
ぼくらは、ヒロシくんと友達になることに決めた。
それから、ぼくらは機会を見つけては、ヒロシくんの家にお邪魔するようになった。
しばらくして、だいぶ仲良くなってくると、ぼくらはヒロシくんを誘って外でドッヂボールやでんつき(←大阪弁で鬼ごっこの事)して遊んだりもした。
ファミコンも、お菓子も、もう必要のないくらい、ぼくらは“友達”になっていた。
(6)に続く