蒲公英 ~癒しと生命力の花~

日記ブログ。たまに短編小説を発表。長編小説(別サイト)連載時は更新通知ブログと化す。

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【番外編】 帰り道にて (炎のキースシリーズ) 

( 2008/01/10 23:09 ) Category キース番外編 | CM(0)

 魔法装置騒ぎが一応解決し、アーカンドルへ帰る道中のこと。
 キースは極端に口数が減っていた。
 考え事をしているようにも、ただ単に疲れているだけのようにも見える。いずれにしろ、キースには珍しいことである。
 キースはわざとやったわけではないが、魔法装置を消滅させてしまったことで証拠がなくなったことを残念に思っていた。一行はドレン卿の姿を目撃してはいるが、それだけではアーカンドルが公式にスカランジアを非難することができないのだ。そのことを考えているのかも知れない。
 あるいは、いくらエマーユに治療してもらったとは言え、矢で肩を貫かれてからそれほど時間が経っておらず、それに続く超絶的な戦闘の直後で相当体力を消耗しているのも事実である。歩くのも億劫なほど疲れているのかも知れない。

 しかし。
 実は、キースは別のことを考えていたのだ。
 ドレン卿は、魔法装置を作ったのは土蜘蛛の先祖と決め付けた。
 だがそれは、祭壇を作ってまでブラウニーストーンを封印しようとしたことと矛盾しないだろうか。
 とは言え、土蜘蛛の歴史は長い。今回のように土蜘蛛同士が敵味方に分かれて戦ったことも一度や二度ではあるまい。仮にドレン卿の言うことが正しいとすると、土蜘蛛衆は大昔からブラウニーストーンを利用したい勢力と封印したい勢力とに分かれていたという仮説が成り立ちはしないか?
 もし、土蜘蛛の隠れ里がドロシーのいる場所1つだけとは限らないとするならば……。
 ドロシー、メリク、そしてベルヴェルク。この3人の他にも、この大陸には土蜘蛛の生き残りがいるのかも知れない。
 それよりも。
 この大陸に現存するブラウニーストーンは、キースの体内のもの1つだけだろうか?

 ――まあいいや、今度ドロシーばあちゃんに聞いてみよ。それよりも――

 魔石と言えば、ドレン卿は義眼としてフリズルーンを眼窩にはめ込んでいる。あれは鬱陶しい。なんとか無力化したい。
 だが敵は随分警戒しているだろうし、スカランジアは何と言っても大国である。こちらから軍を使って近付こうものなら、それを理由にして逆にアーカンドルが潰されてしまう。
 また、ドレン卿は軍師に過ぎないので、例えばキースが国家使節として公式訪問したとしても、その場に必ずしも同席する必要はないのだ。ユック王をさしおいて「ドレン卿を出せ」と言うには相応の理由が要る。そもそも、スカランジアとは友好関係にないのでおいそれと訪問できるものではない。

「ああもう面倒くせえ。今は早く帰って寝たい」

 結局アーカンドルに着くまでにキースがしゃべったのは、この一言だけだった。



 黒ずくめ3人衆とともに多くの呪符を失ったこともあり、瞬間移動用の呪符が底をついてしまっていた。帰路は徒歩以外の選択肢がない。スーチェとニディア以外の面々はヴァルファズル王との緊急連絡用のオウムの存在を知っているが、カーム先生がいないのでオウムを呼ぶことができず、迎えを要求する手段がない。オウムを呼べる人物は、ごく限られているのだ。
 ちなみに、この事件を受けて初めて、ヴァルファズルはキースにオウムの呼び方を教える気になったのであった。

 キースの炎で体温を回復したとは言えぐったりとしてしまったバレグ、そして数時間にわたって縛られていたニディアは、バレグが持ってきた薬草により徒歩で帰るのに必要な体力をなんとか回復した。
 スーチェはと言えば、ふらふらと歩くバレグに心配そうに寄り添い、誰かと話をするような雰囲気ではなかった。
 王室警護隊員のふたりはもともと無口。
 ニディアは自分だけベルヴェルクにおぶさるのを恥ずかしがり、歯を食いしばって自分の足で歩いていた。その後ろを歩くベルヴェルクは、娘以外見ていない。

 そんなわけで、まともに話ができる状態だったのはメリクとエマーユのふたりだけだった。
 メリクは10年前の話をエマーユに聞かせていた。

「祖母は土蜘蛛をやめたベルヴェルクさんにブラウニーストーンを持たせはしたが、ほったらかしにしていたのではなく監視を続けていたのだ。それで、私が監視の任についた。だが、当時17歳だった私は土蜘蛛の長を継ぐよりも学者の道に進みたかった。当然ながら祖母は当時、絶対に首を縦には振ってはくれなかった」

 しかし、結果的にメリクはずっと学園に留まっている。
 実はドロシーは、10年前の時点でとっくに土蜘蛛の存続を諦めていたのかも知れない。
 現在のメリクはその素晴らしい研究業績ゆえに、今すぐにでも助教授になるのに充分な資格がある。しかし残念ながら王立学園にはポストに空きがない。カーム先生からは王立魔法院への勤務をすすめられていた。メリクの論文は学会でも高評価で、魔法院のいくつかの研究セクションはいつでも主任研究員としてメリクを迎え入れる準備があるとのことだった。
 メリクにとっては願ってもないことだったが、それを受ければ忙しくなりすぎるためベルヴェルクの監視どころではなくなってしまう。そういうわけで、その申し出をやんわりと断りつつ、彼はあえて王立学園で助手を続けていたのだ。

「10年前、殿下をお城までお運びしたところ陛下は大層お喜びになった。私にも森の民にもお礼をしたいと仰った」

 しかし、ベルヴェルクの監視活動を続けるためにはあまり目立つことをするわけにはいかない。

「そこで、“照れ臭い”というのを理由に、殿下をお運びしたのは私と同じ黒目黒髪のベルヴェルクだということにしてもらった。彼は彼で陛下の腹心のスパイだが、表向きは侍従ということになっているので、国王が侍従に褒美を出すのは妙な話だ。そんなわけで、お礼は森の民だけに贈ることになった。ここからが本題なのだが……」

「?」

 何ごとも淀みなく話すメリクがもったいを付けるのは珍しい。それまで黙って聞いていたエマーユは小首を傾げた。

「森の民には人間の金品など無価値なので、国王陛下の一存で、森の民をアーカンドルの“名誉貴族”とすることにしたのだ」

「あの……。それが何か? この10年間、基本的には相互不可侵というか、あたしたち森の民とアーカンドルの人たちとは付かず離れずみたいな関係を続けてきていると思いますけど?」

 森の民にとって人間の金品が無価値なのと同様に、人間の地位も無価値なのである。

「うむ。他の王国のいくつかは、王族に限らず人間は他の種族と結婚してはならぬといった規則があったりするのだ……。もっとも、ほとんどの国は専制君主制だから、法律など国王が好きに変えられるのだが。しかしアーカンドルの場合は議会の承認なくして法律を変えられない」

 人間は異種族との結婚に消極的……。そういう話ならエマーユも聞いたことはあった。ある国では、風の民と人間が恋をして、いざ結婚しようとしたら風の民からも人間からも居場所を追われ、ふたりだけで遠くへ逃げるように去っていった話。またある国では、水の民と人間が結婚しようとしたところ、どこかに監禁されてしまったという話など。他国には、そういった話がたくさんある。その点、アーカンドルの人々は異種族との交流に関してとても大らかだ。

「アーカンドルの場合はそれがお国柄なのか国王の人望ゆえのことなのか……。森の民を“名誉貴族”にすることについては誰も異を唱える者がおらず、あっさりと議会を通ったというわけだ。これは他国では考えられないことなのだよ」

 エマーユにはまだ話が見えてこない。少しじれったくなってきた。ヴァルファズル王からの森の民に対する“お礼”は結局のところ自己満足だった、ということを揶揄しているのか、この人は? 苦笑混じりに聞く。

「えと、ごめんなさい、よくわかんなくて。だから……何なんですか?」

「殿下ときみは、アーカンドルにおいては誰にも気兼ねなく結婚できるというわけだよ。何しろ、君もアーカンドルでは貴族の一員なのだからね。……これは、ベルヴェルクさんを監視する中で知ったことだが、キース殿下には見合いの話が一切ないのだ。来ても、陛下が全て止めておられる。陛下も、キース殿下のお相手は君だと考えておられるのではないかな?」

 別に王族の配偶者が貴族でなければならないという法律は、アーカンドルにはない。しかし、アーカンドルの貴族たちはただでさえ他国よりもずっと少ない特権に甘んじている。そのため、王位継承権を持つ者が貴族以外の身分の者と結婚するとなれば、全て却下されるとは限らないもののそれなりに厳しい“物言い”がつくのだ。事実、相手は貴族とは言え他国の娘の家に婿入りすることが決まっている第二王子ヘンリーについては、結婚するのは来年だというのに早々に王位継承権を放棄している。

「“森の民は高貴な種族”。それは幼いキース殿下に対し、陛下がそのように話して聞かせてきたことなのだよ」

「あ……!」

 一緒に歩いているスーチェは、話に参加してこない。聞こえているのかいないのか、どうやら彼女はそんなことよりもバレグの方がよほど気になっていたようだった。なにしろドレン卿の“凶眼”に気付き、彼がとっさに突き飛ばしたのはスーチェなのだ。キースもエマーユもメリクも、バレグを取り囲むような形で皆すぐそばにいたのに。



 さて次の日以降、キースとエマーユが連れ立って歩く姿は、ユージュの森の中だけでなくアーカンドルの街中でもよく見られるようになったという。

 蛇足だが、アーカンドルでは夏になると森の民の衣装を真似たものを着る若い女性が増えたのはこの年からのことである。そういう衣装が流行るということはすなわち、アーカンドルの人々は森の民に好意的であることを意味している。
 なお、未婚女性がそれを着ることには“王子のハートを射止めた森の民にあやかりたい”という意味があるらしいのだが、真相は誰も知らない。

~「帰り道にて」 完~

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エキサイトブログ公開時に頂いたコメント
Commented by 桜桃 at 2008-01-16 19:54
今頃番外編読ませていただきましたっ!

メリクと王様の好感度が一気にアップ!!
そしてバレグとスーチェ、仲良くして欲しいです~w
キースとエマーユは心配しなくても良さそうw

森の民の衣装のエピソード。
こういう話は良いですね。
物語に非常に厚みができたと私は思います!

復活したら新連載の方も目を通させていただきます。
和やかな番外編、ご馳走様でした^^

Commented by kstation2 at 2008-01-17 12:29
桜桃さん>>
こんにちはっ!!
無記名コメントしちゃってすんませんでした(汗)

なんというか、作者的にはメリクへの思い入れが結構強かったりするんですよ。でも彼、希望通り学者になっちゃうので、今後本編への参加はかなーり控え目になりそうな予感。ちっ(苦笑)

>物語に非常に厚みができたと私は思います!
うひゃ。うれしくすぐったい♪ ありがとうございます、がんばりまっす!

Commented by 銀蛇 at 2008-03-22 23:31
物語の背景がより鮮明になりましたね。
キースとエマーユは……もういいなずけみたいな感じですね。

Commented by kstation2 at 2008-03-23 00:10
銀蛇さん>>
おおっ! 番外編もお読みいただけたとは!
そそ、このふたりはケコーン間近です(多分)
▼追記(18歳未満閲覧危険……嘘ですよ♪)▼
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【番外編】 蒼き月夜に降る光 (炎のキースシリーズ) 

( 2008/07/19 19:32 ) Category キース番外編 | CM(5)

「飛ぶがよい。翼持つ者よ。泳ぐがよい。鰭持つ者よ。翼を持ちながら飛ばぬ者は臆病者なり。鰭を持ちながら泳がぬ者は怠け者なり。立ち止まることはない。命ある限り」

 聖書を閉じ、印を切って瞑目し、祈りを捧げる。

「我ら生あるもの。命をつなぐ。記憶に留めん、この世に生を為した者たちを」

 アーカンドルの宗教であるハルダイン教のジョージ・ミンジア神父は、秋の夜風にあたりながら誠実に儀式をこなす。サワムー湖の湖上を吹き渡る風は、冬のにおいを感じさせるほどの冷たさであった。まばらな木立の隙間を通り抜け、冷たい風がミンジア神父の黒い髪を揺らす。
 今年39歳になるミンジア神父は枢機卿であり、高位聖職者であることを示す緋色の聖職者服を身に纏っていた。

 ――ワオーン!

 もの悲しい遠吠えは狼のそれだ。
 ミンジア神父のすぐ横に立つ人物――彼の口から遠吠えが発せられたのだ。
「敵、味方全ての戦士たちよ。刃を収めて休み給え」
 呟く影はグレッグだ。黒目黒髪の175センチの青年である。獣人現象をひきおこしていないが、彼は己の体内に潜む狼人間の力を今や完璧にコントロールできるようになっていた。

 ――ワオーン!

「あんたたちへの憎しみが消えることはない。スコール。ハーディ。だが、な。理由はわからないが、あんたたちがこの世を去ったことははっきりとわかる。そうである以上、あんたたちを知るこの俺が弔ってやるぜ」
 それは、望まずして手に入れた力――狼の力と共に生きていくことを決意した、グレッグによる鎮魂歌である。

「神父さん、無理を言ってすみませんでした。結婚式の前に、これだけはどうしても済ませておきたかったんです」
 礼儀正しくお辞儀するグレッグに、ミンジア神父は柔らかい笑みを返す。
「区切りをつけることはとても大切なことです。あなたの心がけは立派だ」
「ありがとうございます」
「では、来週の結婚式も、精一杯務めさせていただきますよ」
 そう言うと、ミンジア神父は教会へと帰っていった。

 秋も終わりにさしかかり、収穫祭を終えたアーカンドルの夜空高く、丸くて蒼い見事な月が輝いている。月は、ひとり佇むグレッグを淡く優しく照らしていた。
 グレッグは月を仰ぎ、両手を広げてしばし瞑目した。
 やがて彼の身体を白銀の光が包む。それはまるで、グレッグだけを目がけて月から雪が降ってくるような、幻想的な光景であった。
 次にグレッグが目を開けた時、彼の身体は白銀の美しい毛並みに覆われた、一頭の完全な狼の姿となっていた。今までの変身のように、顔だけ狼となって人々を威圧する醜怪な魔物ではない。その姿は神々しくも美しい、聖なる獣であった。
 意図したわけではない。狼の力を受け入れたグレッグによる心からの鎮魂の儀式が、闇の力を聖なる力へと昇華させたのである。

 少し離れた場所から、濃い藍色の光が立ち上る。空中で留まり、滝のように落ちてくるその光は《フォール・エンブレム》――リサの血に含まれる魔石アークルードの力である。
「ああグレッグ。なんてきれいなの……。あまりの美しさに、つい《フォール・エンブレム》を発動しちゃったわ」
 木陰から、長い金髪と朱色の目を持つ美しい女性――水の民セレナ族のリサが現れた。
「あのな……」
 グレッグにとって、リサの反応は流石に予想外だった。完全な狼の姿に変わっても、もとのグレッグのままの声がその口から漏れる。以前のグレッグは、狼人間に変身した後は人間の言葉を発声するのが不得意だった。
「うふふ」
 リサは両膝をつき、グレッグの首筋に縋るような格好で抱きつく。
「狼の姿も美しいけど、式ではずっと人間の姿でいてね。でないとキスしにくいもの」


 サワムー湖の畔、グレッグとリサのいる木立から充分離れた場所を散歩していたエマーユは、顔が真っ赤に火照るのをどうすることもできなかった。エマーユは緑の髪と緑の目を持つ森の民エルフ族の少女である。
「ん? どうしたエマーユ。熱でもあんのか?」
 彼女の隣を金髪碧眼の青年が歩いていた。アーカンドルの妾腹の王子、キースである。エマーユの熱を調べようとして近づけてくるキースの手を、彼女は自分の両手で包み込んだ。
「うはぁ……。耳がいいのも考えものね」
 エルフ族である彼女の耳は、グレッグたちの会話をはっきりと捉えてしまっていたのだ。
 ぼそぼそとつぶやくエマーユの声が聞き取りにくかったのか、キースは耳を寄せてくる。
 キースの頬に、柔らかな唇が触れる。
「あ……」
 エマーユの不意打ちに、今度はキースが顔を赤らめる番だった。
「あのさエマーユ。今さらと思うかもしれないけど、俺にだって心の準び――」
 キースには言葉を継ぐことができない。口を塞がれたからだ。


 小さく溜息をつき、青年が立ち上がる。青い髪と青い目の長身の青年――風の民グライド族のカールである。
「おいマミナ。あんまり良い趣味とは言えないぜ……。城に戻るぞ」
 これじゃ覗きじゃないか。ぶつぶつと独り言を言うカールの背を、小さな光が追いかける。身長30センチの羽の民フェアリー族、マミナが飛んでいるのだ。飛ぶときだけ背中から現れる透明の羽はトンボのそれに似ており、飛んだ軌跡に光の筋を引く。
「目がいいってのも考え物かもね。でも、いいもの見せてもらったわ♪」
 マミナは肩までの長さの深紅の髪を風に揺らし、朱色の目を細めてにやにやしている。
「お前、初めっからこうなると知ってて俺を散歩に誘ったのか。マジで趣味悪いぜ……」
「怒んないの。あんた、誰を選ぶの? あんまり放っておくと、みんなあんたから離れちゃうよ」
 みんな、と言われたカールの脳裏に3人の少女の顔が浮かぶ。だが、あえてしらを切る。
「何の話だよ。……ってか、お前にお節介されるいわれはないぜ」
「ちぇーっ。冷たいの。一緒にお風呂入った仲じゃない」
 マミナとは幼馴染みだが、風呂を共にした経験など全くない。
「そんな覚えはないわっ! 誤解されるようなことを言うなよ!」

 カール達の進行方向から複数の女の子の声が上がる。
「ええっ!? カールって……。ロリコンだったのっ!?」
 全く同時に声を上げ、それぞれ別の方向に走り去る3人の少女。
「はあっ!?」
 一人目はキースの妹、金髪碧眼のファリヤ王女。王女の肩書きを感じさせない、活発で親しみやすい印象の少女だ。
 二人目はサーマツ王国からの旅仲間、ローラ。癖のある赤毛をショートにしていて、大きなブラウンの瞳を持つ少女だ。
 三人目はエマーユの親友、パーミラ。エマーユ同様緑の髪と目を持つが、やや目尻の下がったおっとりした感じのエルフ族の少女だ。

 ――さあ、誰を追いかけるのかしら?

 マミナはにやにやしている。
「引っかかるかっての。バレバレだぜ、マミナ」
 カールは溜息をつき、どこか物憂げに言い捨てる。
「えーっ? 完璧な作戦だと思ったのにぃ」
 カールが誰のことを一番気にしているのか試そうとしたマミナだったが、目論見が完全に外れたことを知った秋の夜であった。


 翌週、盛大なお祝いと共に、グレッグとリサはめでたく挙式した。
「めでたいんだけどさあ……」
 タキシードを窮屈そうに着たカールが、奥歯に物が挟まったように呟く。
「どうした? 兄貴」
 こちらは流石に王子、タキシードをそつなく着こなしたキースが発言を促す。
「なんでグレッグたちのファミリーネーム、“セイブ”な訳? それじゃ、まるで俺の兄弟みたいじゃないか」
「ああ、そのことか。オヤジがさ、“苗字があった方が、アーカンドルで人間と一緒に暮らすのに色々と便利だし、丁度、国内の誰ともかぶらない苗字を最近聞いた”からって」
「俺とかぶるのは気にならないわけね」
「兄貴は、本物の俺の兄貴になってくれればいいじゃないか。ファリヤと結婚して、“アーカンドル”を名乗れば――、のわー!」
 間近で会話を聞いていたファリヤが、ヒールの踵でキースの足を踏んでいた。
「リサさん、綺麗♪」
 などと、うっとりとした声を出しながら。
「それじゃ俺がキースの弟になるじゃないか。ま、それもいいけどな」
「え?」
 ファリヤが輝くような笑みと驚きの入り混じった表情をカールに向けた時、カールはすでに背を向けて歩き去っていくところだった。
「ね、ね、お兄様! 今の、カールが言ったの?」
「いたた、足、どけてもらえないだろうか、お姫様」
 ようやくファリヤの踵攻撃から解放されたキースは、妹の肩に手を置き申し訳なさそうな顔をして言った。
「あれは社交辞令だ。カール兄貴は、今はまだそっち関係の話を真剣に考えたくはないみたいだな」
 カールはチャーリーを失ったのだ。まだ、気持ちの整理がついていないのだ。
「やだ、私。自分のことばかり考えていた……」
 キースの胸に顔を埋め、肩を震わす妹に、彼は優しく髪をなでて声を掛けた。
「めでたい席だぜ、お前が泣くなよ。兄貴なら大丈夫さ、すぐに以前の兄貴に戻る。俺が保証する」
 肩を落ち着かせ、笑顔を作って見上げてくる妹に、キースは今度は人差し指を立て、真面目くさった顔で告げる。
「ひとつ忠告しておこう。兄貴のようなタイプは、な。ガンガン積極的に攻めてくる娘が気になってしょうがないはずさ。幸い、お前のライバルたちはどっちもあんな感じだからな。チャンスは充分に――」
「あのさ。あたしもどっちかというと似たようなタイプなんですけど」
 キースは固まった。
「こりゃあ、兄貴、大変だぜ。決めんのに結構時間かかるかもな――うぎー!」
 声に出すべきではなかった。キースは再び妹の踵攻撃を受けてしまった。
 足が痛いけど、妹が元気になってよかったと思うキースであった。
「うりうりぃ♪」
 兄の足を踏みながら、ファリヤは今や大の仲良しとなったローラとパーミラに思いを馳せる。
 カールが自分以外のどちらを選んでも、自分はきっと心から祝福してしまうだろう。逆に、もしカールが自分を選んでくれたとしたら、自分は心から喜ぶことができるのだろうか。いやそもそも、カールは自分たち三人の中から誰かを選んでくれるのだろうか。
「ばーか。何も始まらないうちから心配したってしょうがないぜ。それに、こういうことは自分の気持ちを一番に考えればいいのさ」
 見透かしたようにおでこをつついてくるキースに対し、ファリヤは一瞬睨む視線を返したが、少し俯くと無言で頷いた。

 披露宴はつつがなく終了し、外は夜。
 蒼い月が、ラージアン大陸全土に淡く優しい光を降り注いでいる。

~「蒼き月夜に降る光」 完~



あとがき
キース2から数ヶ月経過した、その年の秋のお話です。
キース2までの本編を読んでおられない方にはわかりづらい内容だと思います。
キース3への伏線は張ってない……つもりです^^
前後編にしようかと思ったけど、一話完結にしちゃいました。
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【番外編】 肝試し(学園キース 1) 

( 2009/08/18 18:32 ) Category キース番外編 | CM(13)

 林鈴(リンベル)学園は明日から夏休み。正門から出てきた男子生徒がふたり、並んで下校している。
 片方の生徒は大きめの瞳がくるくるとよく動く、好奇心の塊のような少年。今どきの高校生にしては珍しく、可愛らしいとさえ表現したくなるような雰囲気を持っているが、その表情と癖のある髪の毛がよくマッチしている。
 その隣を歩いているもう一方の生徒は彼より頭ひとつ背が高い。彼は相棒を見上げ、声をかけた。
「今夜は現地集合だよね。で、誰を誘ったのさ、キース」
 名を呼ばれ、静かに視線を向ける。
 彼の名はキース。成績優秀、スポーツ万能の彼は身に纏う雰囲気と整った顔立ちとが相俟って、一部の女子生徒から王子と呼ばれており、学内にはファンクラブさえ設置されているという。財閥の御曹司と言われたら誰もが納得するだろうが、ごく平均的な家庭で暮らしている。
「それを先に言ったら面白くないぜ。楽しみにしてろ、バレグ」
 粗野な言葉遣いがミスマッチだが、キースにとってはこの状態が自然なのだ。今のところ、バレグをはじめとする何人かの幼馴染みの前でだけ、彼は本来のキースとして振る舞う。
「ちょっと待て。キースの言う楽しみって、いつも心臓に悪い内容ばっかりじゃないか。ヒントだけでも」
「多少のゲストはいるけど、ほとんど同じクラスの連中」
「なんか、思ったより大人数っぽいね。で? ヒント、それだけ?」
「今夜になれば嫌でもわかるさ」
「ちぇーっ。キースのケーチ」
 その言葉に歯を剥き出して笑うキース。
「う。ファンクラブの女の子たち、キースのこの野生児っぽい表情を見ても王子って呼ぶのかなあ……」



 時は流れて深夜十二時。
 林鈴学園の正門前に立ったバレグ。彼は通用口が開いているのを気にしつつ、門を背にしてキースの到着を待った。
「むう。時間ぴったりなのに、やっぱり僕が一番乗りかあ。キースの奴、一体誰を何人呼んだんだろ――むぐっ」
 一瞬の出来事だった。
 バレグは口を塞がれ、通用口から学園内に引きずり込まれてしまったのだ。
 仰向けに転がされ、恐怖に震えるバレグに、女の声が話しかけてきた。
「しっ! 落ち着け、馬鹿バレグ。こんな時間に外をうろついてるのがバレたら、親や教師に言い訳できないだろ」
 暗闇の中、がくがくと首を縦に振るバレグに気付いた女は、彼の口から手を離す。
「その声――スーチェ!?」
「だから静かにしろって!」

 ――ごつん。

 押し黙ったバレグは、懐中電灯で照らされた。彼のすぐ横に立つ少女の姿も同様に照らされている。
 バレグとほぼ同じ背丈のポニーテールの少女だ。整った顔立ちをしているが、身に纏う落ち着いた雰囲気のせいか、遠目には美少年のように見えることもある。握り締めた拳には撃ち終えた直後の拳銃に等しい凶暴さが込められており、バレグを殴りつけた少女、スーチェであることを雄弁に物語っていた。
「よお。時間通りじゃねーか、バレグ」
 キースが手に持った懐中電灯がバレグたちを照らしていたのだ。スーチェの拳によって拵えられた見事なたんこぶが、懐中電灯の光を綺麗に反射していた。
「まあ、綺麗♪」
 キースの隣に、腰まで伸びた長い髪を持つ少女が立っている。
 彼女の輝く笑顔は暗闇の中にあってさえ周囲に虹色の星をふりまいている。学園の花々の中にあってさえ一際目立つ白百合。この学園の男子生徒であれば、いや、女子生徒であっても知らない者はいないと思われる大輪の花。キースの隣にいるのはそういう少女なのだ。
「いってー。なんだよエマーユまで。あの優しかったエマーユはどこに……。すっかりキースの悪影響に染まっちゃって」
 長髪の美少女、エマーユがバレグのそばにしゃがみこむ。
「ごめんごめん、バレグ、大丈夫?」
 苦笑してバレグのたんこぶに手を伸ばすエマーユの背後から、キースとスーチェが見下ろしている。
「放っときな、エマーユ。男のくせにたんこぶひとつで大袈裟なんだよ、バレグは」
「感謝しろ、バレグ。今日もスーチェとの親交が深まったじゃねえか」
「どーゆー感覚してんのさ、キースはっ。いてて」
「いたいのいたいの、とんでけー♪」
 ひとりだけ明らかにテンションの違うエマーユ。バレグはため息をついた。



 立ち上がったバレグは気を落ち着かせ、服に付いた土埃を払いながらキースに問い質した。
「この4人で決行するの? でも、スーチェはともかくエマーユには危ないんじゃない? ドレン校長の不正を暴くなんて」
「スーチェはともかくってなんだよ、バレグ――」
 バレグに食ってかかるスーチェを手で制し、キースはにやりと笑った。
「肝試しだ」
「は?」
「聞こえなかったか。き・も・だ・め・し」
「あの、もしもし?」
 エマーユがにこにこと笑う。
「楽しみー♪」
 その様子を横目で見つつ、スーチェが無愛想にバレグに説明する。
「物わかりの悪い奴だな、バレグ。キースは最初から肝試しをするつもりで私たちを集めたのさ。いつものようにかつがれたんだよ、お前は」
 能面のように表情が消えていたバレグだったが、我に返ると頬を膨らます。
「最初っからそう言えばいいじゃないかっ。大体キースはいつもいつも」
「いつもいつも同じ手口に引っ掛かる奴が悪い。学習しろ。ま、さすがの俺にも罪悪感があるからな。だから今日はお前のためにスーチェを呼んだのさ」
「おいキース。さっきから聞いてりゃ……。私はバレグのエサか。逆ならまだわからんでもないが」
「あら、やっぱりそうなの?」
 エマーユの絶妙なツッコミに、スーチェは一瞬固まり、次いで頬に赤みが差す。
 口許に笑みをはり付け、キースが高らかに宣言した。
「今夜はゲストにいろいろ仕込んでもらってる。俺も内容は知らないぜ。コースは校舎の間を抜けて裏門までだ。肝試し、スタート!」



 先にスタートしたバレグ&スーチェチームが裏門に到着した後、すぐにキース&エマーユチームも到着した。たっぷりと時間差をあけてスタートしたはずなのに。
「ううむ。もっとエマーユが怖がって俺に抱きついてくるシチュエーションを期待したんだがな」
「うふふ。こんな肝試しじゃなくっても」
 バカップルぶり全開の会話を交わす二人は、先に到着した二人を見下ろして絶句した。
「ほらスーチェ。もう大丈夫だから」
 しゃがみこみ、肩を震わせているのはポニーテールの少女。その背を優しく撫でているのは癖毛の少年だったのだ。
「うぇ。ひっく」
 まさに、事実は小説よりも奇なり。

~「肝試し」 完~


あとがき
キースシリーズのセルフパロディです。
マイルド風味な学園物テイストでw
今回は学園物第一弾ということで、あまり飛ばしすぎないよう気をつけましたが……。
第二弾以降があるのかどうかについては不明(^^;
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