蒲公英 〜癒しと生命力の花〜

自作短編/長編小説を発表するブログです。たまに日本語のことを少しだけ考えてみたり、日記を書いたりします。
月別アーカイブ  [ 2008年06月 ] 

スレッジ・チェイサー (14) 

 車を停めたアイクの正面に、ゲイリーもバイクを停めた。
「ブース!」
 急いで降りようとしたカナだったが、車のロックが外れない。
「ねえ、開けてよ!」
 助手席で端末を操作しているマークが、手を休めず落ち着いた声で告げる。
「ノイルさん、荷物は持ってきましたね?」
 マークはゲイリーに話しかけたのだ。車外スピーカーを使ったようだ。
 ゲイリーは大きくうなずき、バイクのタンデムシートに括り付けた箱を示す。
「オーケー。それを持って、こちらの車の助手席側から後部座席へと回ってください」
 ゲイリーは言われた通り、ゆっくりと近付いてくる。
 マークは端末を操作しながらアイクに報告する。
「銃器やナイフの類は携行していませんね。丸腰のようです」
「金属センサーでは、銃器やナイフ以外の武器までは検知しないぞ。もっとも、このお嬢さんを連れてくることを条件に、ブースにわざわざ出向いてもらったわけだから……、常識のある奴なら下手に武器を持って来ねえだろうがな」
 マークは端末から目を離さず、冷静に告げる。
「いますね、招かれざる客が。左40メートル、3人。右50メートル、4人確認」
「なに!? なんでそんなに近付かれるまでセンサーに反応しなかったんだ?」
「電波の傘。こちらのセンサーが奴らに騙されていたようです。昨夜の男も奴らの仲間かも知れません」
 アイクに答えた後、マークは心の中で苦々しくつぶやく。
(この芸術的なまでの電波妨害……。あいつしか考えられない。ミリィめ!)
「単なる強盗だと思って、昨夜の男を放置したのは僕のミスです。すみません」
「何言ってる。気絶した俺を、あんな化け物から救ってくれただけでも殊勲賞もんだぜ。お前は、俺がこれまで組んだどんなベテランよりも優秀な賞金稼ぎだ」
 やはり、アイクは昨夜のマークとスービィのやりとりを覚えていないようだ。アイクは後部座席を振り向いて言う。
「あんたの言う外国の情報部かどうか知らんが、得体の知れない連中が7人くらいで取り囲んでいやがる。このままブースの旦那をあんたの隣に乗せてずらかるぜ」
 黙って頷くカナを見て、マークが指示を出す。
「ノイルさんに乗っていただくよう、身振りで伝えていただけますか?」
 カナは少し考え、ドアのすぐ外まで近付いてきたゲイリーに手招きをして後部座席を指で示した。
 ロックが外れる。カナがドアを大きく開けた。
 ゲイリーは荷物を持ったまま素早く後部座席に身を滑り込ませる。
 ドアを閉めるより早く、アイクは車をバックさせ、タイヤを鳴らしてターンする。
 カナの視界に、あわてて物陰から飛び出す兵士たちの姿が目に入った。
「ユキさん!?」
 兵士たちのひとりが今朝会ったばかりのユキとよく似ているような気がしたが、遠すぎる。錯覚かも知れない。
 兵士たちは車2台とバイク2台に分乗すると、こちらを追ってくる。
 アイクが車を走らせつつ、車載無線を操作した。
「アルファ4。イオタ1です。オメガと接触。しかし想定外の敵に追われています」
「イオタ1。アルファ4、了解だ。座標0・0・0に向かえ」
「了解!」

*      *      *


 エアバイクに取り付けた防御フィールド発生装置は素晴らしい効果を発揮した。
 キャノピー正面に直撃したはずのメタルジャケット弾がひしゃげ、地面に落下する。キャノピーには傷ひとつつかない。
 軍の中でも特殊部隊にしか装備されていないという。それを、スービィが用意してくれたのだ。だが、エアバイクに取り付け可能なサイズの制限上、効果はわずかに3分。
 ――ズドォーン!!
 背後で耳をつんざく強烈な破裂音がして、砕けた小石と砂埃が降ってきた。
「手榴弾だとぉぉぉ!!!」
 あれだけの破壊力の直撃を受けては、防御フィールドがあっても安心できない。かと言って、正面突破しようにも待っているのはマシンガンの集中砲火だ。
 わずか数十メートルの距離が詰められない。

 防御フィールドの残り時間は1分。
 《アースシェイカー》が立ち上がるまでの残り時間は2分だ。
 スレッジはバイク正面に取り付けた銃を撃つ。麻痺モードで連射だ。
 何人かの兵士に命中したが、効果はない。連中が着ている防弾ジャケットには、ビームキャンセラーの機能もあるようだ。
 決断が遅れれば自分もミリィもおしまいだ。ちらと振り向いたスレッジは、こちらへ近付く車の砂埃を見た。
「くそ……、退路も断たれたか!」
 足場の悪い戦場で巧みにバイクを操りつつ、スレッジは正面突破を決断した。
「ミリィ! 突っ込むぞ!」
「うん!」

 防御フィールドは残り20秒。
 スレッジは頭の中でカウントダウンしつつ、バイクの正面を《アースシェイカー》格納庫へ。
「そこをどけ――」
 前輪を持ち上げ、兵士の群れに突っ込んでいく。
 さすがに《パペット》とは違い、左右に飛び退る兵士たち。
 格納庫への入口が見えた。

 残り10、9、8……。
 ――コロン!
「んなっ!!」
 バイク正面のライトの上に、ピンを抜かれた手榴弾が引っかかっている!
「くそっ!」
 スレッジはハンドルから手を離し、ゲイリーが取り付けた円筒形の装置のレバーを掴む。

 残り4、3、2……。
「おりゃああああ!!」
 力一杯レバーを引く。
 ゼロ!

 ――轟音!
 閃光とともに、スレッジとミリィの乗ったエアバイクが爆発した。

(15)に続く



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( 2008/06/30 19:51 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(0)

スレッジ・チェイサー (13) 

 軍隊にはもともと超過勤務の概念が存在しなかったが、震災後しばらくして軍隊にもタイムカードが導入された。残業手当は他の職種とは比べものにならないほどの少なさだが、今までのことを思えば手当がつくようになっただけでも大きな改善だと言える。
「コーエン少尉は自分で自分のことをいい加減な上官だなんて言うけど、あの人はすすんで雑用も俺たちと平等にこなすからな。絶対他の士官よりも働いている。その分、俺たち下士官が支えてやらないと」
 マーチン・デービス上等兵の言葉を思い出しながら、若い二等兵はユキの替わりに彼女のタイムカードを押した。ユキはマーチンに言った通り、勤務終了時間より30分早く帰ってしまったのだ。
 二等兵自身も、ユキのことをいい加減な上官だなどと思っていない。同期で入隊した同い年の下士官たちは、上官に雑用を押し付けられたり、無意味にどつかれたり、さらにはもっとひどい扱いを受け、定期的にメンタルケアを受けている者もいる。
 持ち場へ戻ろうとした二等兵は、通路を曲がる手前で足を止めた。呼吸も最小限にして気配を消す。聞こえてきた上官たちの会話に胸騒ぎがして、耳を澄ました。
「中尉、至急ペイジ中佐のお耳に入れるべきかと」
「本日のコーエン少尉の通話記録をか、軍曹。例の作戦まで30分を切っているぞ。緊急なのだな?」
 上官たちの会話は、コーエン少尉の個人のケータイによる通話記録の内容をペイジ中佐に報告しようというものだった。
 ――情報部の兵士にプライバシーはないぜ。ケータイの通話記録までチェックされてるって噂だぞ。
 それは情報部への入隊前から、仲間内で話題に上っていたことだ。とは言え半ば冗談めかした話題だった。まさか、本当に個人のケータイの通話記録まで筒抜けだったとは。しかも上官たちの会話の端からは、毎日チェックしている様子が伺える。
 こうして事実を突きつけられたことにより、二等兵は少なからずショックを受けていた。
「いずれの記録も少尉だけが一方的にしゃべっており、不自然です。つまり……」
 つまり、それは符牒。ペイジ中佐の動向を監視していたコーエン少尉が何者かに報告していたということではないだろうか。二等兵の脳裏にスパイの文字が浮かぶ。
 ――まさか、情報部士官であるコーエン少尉が身内をスパイしていたと言うのか!?
「判断を下すのは我々の仕事ではない。事実だけをペイジ中佐に伝えよう」
「しかし、間もなく作戦開始時刻です。既にケータイは通じません」
「報告を後回しにするのはまずいな。暗号化無線を使う」
 上官たちの足音が遠ざかった後もしばらく気配を消して固まったまま、二等兵は自分がどうするべきかを必死に考えていた。
「コーエン少尉が危ない。デービス上等兵に相談しよう。急がなければ!」
 下士官であり、今回の作戦に参加しない彼は、本来作戦の詳細を知り得ない立場である。しかし、デービス上等兵は、そういった“本来知り得ない”ことを何故かよく知っていて、いつも他の下士官に得意げに教えてくれていた。
 ――彼ならば少尉を助けるか、最悪でも危険を警告することはできるに違いない。
 軍隊という組織の中にあって、その行動は背信行為と見做されても文句は言えない。しかし、それが二等兵の出した結論だった。

*      *      *


 この場所は今回の作戦におけるポイント0・0・0である。衛星からもカムフラージュできるよう、岩を模した天蓋の下に《アースシェイカー》が寝かせてある。
 《アースシェイカー》の各関節部分へのリモートユニット取付作業を横目に、ペイジ中佐は装甲車の中でゆったりと座っていた。
 基本的に、《アースシェイカー》用のリモートユニットと《パペット》用コアユニットは同じものだ。周囲の反重力フィールドを取り込み、無生物を操るための機械なのだ。
 《パペット》を動かすために必要な反重力フィールドはごく微量。《アースシェイカー》の重量を計算に入れても、《パペット》用よりも少し出力を強力にしたユニットを各関節に装着すれば簡単に動くはずだった。
 しかし《アースシェイカー》は、これまでの研究の中ではどうしても動かすことができなかった。
「これまで地球上になかった反重力フィールドを運んできたのが、あの《アースシェイカー》です。しかし、盲点でした」
 それは以前、陸軍科学研究班の科学者からペイジ中佐が受けた研究報告である。
「あの震災によって地球上に充満した反重力フィールドこそが《アースシェイカー》の枷となっていたのです。そこで、フィールドを取り込んでエネルギーに変換する《パペット》用コアユニットの強化型を開発しました」
 《アースシェイカー》を動かすには、強力なトランスジェネレーターを使って周囲の反重力フィールドをエネルギーに変換しておく必要がある。ただ、ジェネレーターを起動すると周辺の反重力フィールドが一時的になくなる。
 そして、ジェネレーターが生成するエネルギーをリモートユニットに伝達することではじめて《アースシェイカー》が動くのだ。
 現在ペイジ中佐が乗っている装甲車に、トランスジェネレーターが積んである。昨夜起動したこのジェネレーターは、そのまま稼働させている。これを稼働させ続ける限り、ネオ・ジップ周辺の反重力システムはダウンし続けるのだ。
「しかし、そのエネルギーを受け取るリモートユニットには、地球上の――現在の我々の技術では充分な耐性を与えることができませんでした。長時間に及ぶ連続運用ができないのです。つまり《アースシェイカー》の兵器利用は現実的とは言えません」
 ユニットを利用して《アースシェイカー》を動かしても、まともに行動できる時間はせいぜい40分、条件がよくても1時間というところだ。
 そこでペイジ中佐が考えたシナリオは、《アースシェイカー》を悪役にして《パペット》でやっつけることにより、《パペット》を軍用兵器として制式採用してしまうというもの。
「そのためには我々の罪を担ってくれるスケープゴートが必要だ」
 装甲車内に複数あるモニターのひとつが、ゲイリーのバイクを映していた。アイクの車に取り付けたカメラによる映像だ。ゲイリーの身長は193センチであり、肩幅も広い。
「ふ。ヤギに見立てるには随分大柄だがな」
 その時、別のモニターがある映像を流し始める。夜闇の中、陸軍のマシンガンをものともせずに歩き去る謎の巨人の映像だ。
 昨夜の《アースシェイカー》を一般人が撮影していたのだ。その映像がネットを通じて配信されている。
「ふむ。良いタイミングだ。七大国連合(ビッグセブン)が我が国に介入するには時すでに遅し」
 本来ならリアルタイムに配信されていてもおかしくなかったはずのネット上の映像。陸軍情報部は――ペイジ中佐はネットさえも完璧に抑え込んだのだ。
 ずっと眠っていた《アースシェイカー》が突然起きて暴れ出した。それを早々にマスコミに騒がれては国際社会の知るところとなり、間違いなくビッグセブンに軍事介入される。震災の際に他国に随分世話になったこの国が、それを断ることはできないだろう。
 しかし《アースシェイカー》が陸軍開発の《パペット》以外のものにやっつけられることがあってはならない。
 ペイジ中佐は再びゲイリーを映すモニターに視線を戻す。
「貴様は天才エンジニアだ。そして今、その手には得体の知れないユニットを持っている。つまり……、《アースシェイカー》を起動するのは貴様だ、ブース」
 ――身体はでかいが、貴様こそが身代わりのヤギ(スケープゴート)だ。
 ペイジ中佐は声を立てずに笑った。

*      *      *


 15時まで10分を切った。スレッジのバイクは未舗装路を走っている。
「どこだ、奴らっ!? 完璧にカムフラージュしやがって!」
 せめて兵士たちか、軍の装甲車があれば……。
 焦りがスレッジの運転を雑にする。足場の悪い未舗装路でタイヤが滑るたび、ミリィは慌ててスレッジにしがみつく。
「焦んないで、スレッジ! 僕が探すから、できるだけ運転に集中しててっ!」
 ミリィが設定したルートはまだ続きがある。ディスプレイの光点を眺めたスレッジは、一旦バイクを止めた。
「どしたの、スレッジ? あきらめちゃだめだよぉ!」
「ミリィ、見てみろ、このルート」
 ミリィはスレッジの肩に手を置いてタンデムシートから腰を浮かすと、スレッジの肩越しにディスプレイを覗き込む。
「んーと。……てへ。僕、自分でルートを設定したんだけど、実際の道路や地形とは頭ん中で結びつかなくって……」
「あらら……」
 ずっこけたスレッジだが、気を取り直して説明する。
「ここ、舗装路じゃないから虎柵こそ設置されてないが、あの岩や、この先の妙に均一に砂利が敷き詰められた道……」
 ミリィにもようやくスレッジの言いたいことがわかった。
「僕ら、まんまと迂回させられてたってわけ!?」
「そ。今からちょっとばかり……、いや、そう言うと嘘になるか。思いっきりがくがく揺れる道を走るぞ。舌噛むなよ!」

 残り5分だ。情報部の連中は、既に《アースシェイカー》へのユニットを取り付けたことだろう。
 巨人が立ち上がる前と立ち上がった後では難度が段違いだ。
 それに加えてこの岩場。移動にはバイクより2本足の巨人の方が圧倒的に有利なのだ。
「! 左か?」
 理屈ではない。スレッジは突然、バイクを左へと巡らす。
「スレッジ! あそこっ!」
 ――いた!
 ミリィの左手が指差すところに、マシンガンを構えた兵士が並んでいる。
 10人を超えている。ゆっくり数えていられない。
 兵士たちの後ろには、不自然な岩の天蓋が見える。
 近付くとはっきりわかる不自然さ――、人工的な建造物の上に岩が乗せてある。
「あの下だなっ、《アースシェイカー》はっ!」
 兵士たちはすでにこちらに銃口を向けている。
「来るぞ、ミリィ! 銃弾が当たらないように祈ってろっ!」
 ――タタタタタ!
 やはり、警告なくマシンガンの発射音が轟いた。
「上等だ、くそったれ!」
 スレッジは一瞬、ゲイリーに取り付けてもらったスペシャル装備に目をやる。
 ――まだだ。
 レバーを引くのは、もう少し近付いてから。

(14)に続く



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( 2008/06/27 17:30 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(12)

【途中経過】キャラ絵 

専属絵師のがちゃこ☆さんによる新着イラストの途中経過を拝見しましたのでご報告を♪
キースシリーズにおける、森の民の親友ふたり組です♪♪♪
線画の状態(というか、服以外は着色してありましたけど)で見せていただいたのですが、かわいぃですよぉぉぉおぉ!!

例によってお忙しい方なので、いつごろアップできるかについては特に予告いたしません。
乞うご期待♪


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( 2008/06/25 20:02 ) Category 頂き物(イラスト) | TB(0) | CM(7)

スレッジ・チェイサー (12) 

 カナは賞金稼ぎのアイクが運転する車の後部座席に座っていた。
 目の前の運転席で窮屈そうに運転している男こそ昨夜自分をさらった男なのだということを、カナは知る由もない。
 カナは助手席に座る赤毛の少年に興味を持った。
「あなたも賞金稼ぎなの? 随分若いのね。名前を聞いてもいいかしら?」
「マーカス・ペイジ。マークと呼んでください」
 マークは無表情に答えた。
「あら? 違ってたらごめんなさいね。もしかしてペイジ中佐のお子さん?」
「ペイジ孤児院で生活してました。そこで育った子どもはみんな苗字が“ペイジ”なんです」
 マークの言葉に運転中のアイクが驚いた顔を向けた。
 ペイジ孤児院というのはペイジ中佐の父親が創設した私設孤児院で、設立当初は純粋な孤児院だった。しかし近年は、孤児の中から才能のありそうな子どもだけを集めて英才教育を行っている。入所できる子どもを独自の基準で選んでいるため、ペイジ中佐のシンパを増やすための施設と揶揄されることも多い。しかし、入所している子どもに最高の教育を受けさせているため社会福祉事業として一定の評価を得ており、これまで一切の行政指導が行われたことはない。
「ペイジ孤児院だって? あそこ出たガキって、ほとんどエリート軍人になってるよな……。お前、頭いいんだろ? 賞金稼ぎなんかやって、勿体ない」
「軍人になりたくなかったので早々に賞金稼ぎのライセンスを取りました。しかし、最初の仕事を依頼主に世話してもらう結果になってしまって……」
 ルームミラーに映るマークは唇を噛み、口惜しそうな表情をしていた。頑なに“依頼主”という言葉を遣い続ける彼からは、孤児院のオーナーたるペイジ中佐を慕う様子が感じられない。
 ――へえ、歳相応の表情も見せるじゃない。
 カナの視線に気付いたマークは、一瞬でもとの無表情に戻った。

 42年前の大震災で孤児が増えた。そんな孤児を養子として育てる人々もいたし、資産家の中には私財をなげうって孤児院を作る人もいた。ペイジ孤児院は、その時に作られた施設なのだ。
「俺たちの依頼主って、案外いい人なのかもな」
 その言葉に、マークは一瞬首を振ったかのように見えたが、何も言わなかった。
 気になったが、そのことをマークに聞いても答えてくれないような気がしたので、カナは話題を変えた。
「ブースのこと、見つけてくれてありがとう。無実なんだから、この先あなたたちのような賞金稼ぎに狙われなくて済むわね」
 カナにとってはやや意外なことに、アイクではなくマークが落ち着いた声で答えた。
「そのことなんですが、まだ安心できません。昨夜、ノイルさんを探していた我々は何者かに謎の男のいる場所へまんまと誘導されました。未知の敵が、我々とノイルさんとの接触を邪魔することも充分に考えられます」
「他の賞金稼ぎは、まだブースが無実だってことを知らないからな。もうじきブースと会うことになってるが、邪魔が入る可能性もあるぜ。しかし、たかが220ローエンの賞金首だろ? そんな必死に俺たちの邪魔してくるものかね……」
 無言で相棒を見返すマーク。アイクははっとした。
「ブースが持っているっていう機械の部品か。そんなに価値のあるものなのか?」
「あるんでしょうね。少なくとも、依頼主にとっては」
 どうやら賞金稼ぎは、ごく断片的な話しか聞いていないようだ。カナは、ペイジ中佐から聞いた話をするべきかどうか少し迷った。だが、自分が知っていることを黙っていたことが原因の一つとなって、目の前の男たちが生命の危機に陥ることになっては寝覚めが悪い。
「その部品をめぐって外国の情報部がブースを追いかけてるかも知れないっていう話だったわ」
「ひゅー。そいつはおっかねえ話だ。道理で報酬額が良かったわけだ」
「本当に知らなかったの?」
 無言で肩をすくめるアイクの様子を見て、カナは嘘ではなさそうだと思った。しかし彼女は、マークの様子に違和感を感じた。ほんの一瞬、ルームミラーに映るマークの表情にどこか辛そうな色がよぎったのだ。
 ――この子、何か知っている。
 何を知っているのか、直接聞いてみるべきか。カナはやめておくことにした。
 ペイジ孤児院にいたというマークには、望むと望まざるとにかかわらずペイジ中佐の息がかかっていると見るべきだ。ペイジ中佐が何を考えているのかわからない以上、信用すべきではない。彼女の勘がそう告げていた。
 カナは再び話題を変えようと思い、アイクに話しかけた。
「ねえ、あなたの名前を聞いてないわ」
「う……。名乗るほどの者じゃねえよ……」
 口ごもるアイク。彼は仕事とはいえ昨夜さらった相手に名を聞かれて戸惑っているのだが、カナはそれを誤解した。
「やあねえ。なにも付き合ってくれって言ってるわけじゃないのよ」
「わかってるよ。俺はもてねえし、あんたには彼氏がいる。……俺はアイク・ホイだ。でも、できれば覚えないでくれ」
「? 変な人……」
 逆に印象に残るように演出しているつもりなんだろうか。何にせよ、カナはアイクへの興味が薄れていった。

*      *      *


 スレッジのエアバイクにデジルからの連絡が入った。
「スレッジ。パーマーの協力者がうまくやってくれた。今んとこ邪魔されずに走っているな?」
「ああ、デジル。気味悪いくらい順調だぜ」
 海沿いの道を走りながらスレッジが答えた。ミリィが選んだ経路上には陸軍も警察も見当たらない。そのことを敏感に察知した民間人がまばらに外出しており、スレッジにとっては良い隠れ蓑になりそうだった。
「そろそろゲイリーが合流する」
「ゲイリー?」
「偽名だ。お前も今後はブースのことをゲイリー・カーターと呼べ。奴は今金髪のヅラをかぶってる」
 金髪――。スレッジの脳裏に、昨夜目の前に墜落したエアバイクが甦る。
「あいつがブースだったのか」
 海上を走ってきたエアバイクが海沿いの道へと飛び上がってきた。午後の日差しを反射し、サングラスと白い歯が輝いている。
「おーお。かっこいいご登場だこと。……どことなく古くさいけど」
 スレッジのバイクの横に並びながらゲイリーが叫ぶ。
「今から恋人を取り返そうってんだ。少しだけカッコつけさせてくれ」
 スレッジの後ろからミリィが叫んだ。
「ゲイリーかっこいい! でもズラがずれてるよっ♪」
 併走するゲイリーが止まるよう指示してきたので2台は一旦止まった。
「デジルから伝言だ。“エアバイクは壊れても構わん”だとさ」
 ゲイリーは言いながら、ひとつにつき1分とかからずに細長い円筒形の機械をスレッジのバイクに括り付ける。ハンドルの下側、左右に1本ずつだ。先端は前方斜め下を向いているから、敵に向けてぶっ放すバズーカ砲というわけではなさそうだ。
「壊れても構わん!? ひょえー、あのデジルがねぇ」
「死ぬなってことさ」
 取り付け終えたゲイリーがスレッジににやりと笑いかける。
「で、今取り付けたこれって何?」
「スペシャル装備だ。ピンチになったら使え。使うときは2本同時にそのレバーを後ろに引けばいい。さあ、急げ。作戦開始時刻間近だから、連中の準備は最終段階のはずだぜ」
「待てよ、あんたのは?」
 見たところ、ゲイリーのバイクには同じものはついていない。
「そいつはあんたたち専用だ。俺には別のスペシャル装備がある」
 ゲイリーは乗ってきたバイクのタンデムシートに括り付けた箱を指差して言う。
 自分の命を守る装備がどんなものか知りたかったが、ゆっくり話を聞いている暇はない。
「っしゃ! 行くぜ」
 飛ぶように走り去るスレッジを見送り、ゲイリーが呟いた。
「同じエンジンなのに、なんであんなに速いんだ?」
 スレッジが角を曲がって見えなくなると、別の角から車が現れた。ゲイリーは、その車に近付くべく、ゆっくりとバイクを発進させた。

(13)に続く



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( 2008/06/25 18:18 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(2)

スレッジ・チェイサー (11) 

「ごめんなさい、まだ勤務中なの。あと1時間したら電話ちょうだい。――ああ、そうね。こちらからかけ直すわ。それまで電源切っておくわね。じゃ」
 ケータイを制服のポケットにしまったユキの背後から、ペイジ中佐が声をかけた。
「ほう。恋人かね、コーエン少尉。今のは聞かなかったことにしておく。今後は勤務中にケータイの電源を切っておくことを忘れないようにな」
「は、中佐! 以後気をつけます!」
 ユキは回れ右をしてペイジ中佐に敬礼した。
 ペイジ中佐の横をタンクトップにジーンズ姿の女性が歩いている。カナだ。どこか機嫌が良い様子のカナは、ユキの横を通り過ぎる際、ユキの方を向いてウインクして見せた。
 ばつが悪そうに会釈して見せたユキは、ペイジ中佐たちが廊下を曲がった後、再びケータイをポケットから取り出した。
「あ、もしもし? 私よ。上官がね、予定より早く出掛けたの。いつものとこ? 30分で行くわ。勤務時間? いくらでも誤魔化せるわよ、そんなもの」
 電話を切ったユキは人の気配を感じて振り向いた。そこには黒髪を五分刈りにした男性兵士が立っており、にやにや笑いながら敬礼をしてみせた。たしか、年齢はユキと同じ23歳のはずだが、士官学校へ行かずに入隊した彼の方が古株である。
「お盛んですね、少尉殿」
「悪いが、30分早く上がらせてもらう。いつものように頼むぞ、デービス上等兵」
「お任せください。少尉殿にはいつもお世話になっておりますので」
「貴様も」
「はい?」
 ハイスクールの頃から情報部への入隊を目指してきたユキにとって、同い年の下士官が見せる人の良さはまぶしかった。
 ――貴様も、普通の恋愛をしたければ一刻も早く情報部以外の部署への転属願いを出すことだ。
 その言葉を呑み込み、ユキは別のことを言った。
「貴様も、私のようないい加減な上官の下にいては苦労が多かろう? いつも助けてもらっているのは私の方だ」
「とんでもないです。少尉殿のような上官がいらっしゃるからこそ、私ら下士官は軍隊の中にいながら人間らしさを失わずに済むし、ご命令には全力でお応えしようと思えるんですよ」
「ありがとう、マーチン」
 部下をファーストネームで呼ぶと、ユキはその場を後にした。それ以上言葉を交わしているのが辛かったのだ。

*      *      *


「ガンマ4へ。こちらアルファ2。配置変更だ。P3からP5までを座標0・2・2へ。P9からP11までを座標3・3・1へ。繰り返す――」
「アルファ2。ガンマ4です。発令理由の開示を求めます。配置変更を実行したら、ポイント1および2の守りが薄くなってしまいます」
 既に一般のケータイが通じないよう、基地局への工作は実行済みだ。兵士同士の通信は暗号化無線に限られていた。
「ガンマ4。アルファ2だ。配置変更はアルファ1からの指示だ。作戦開始時刻まで30分を切った。以後は発令理由の開示は認められない。速やかに命令を実行せよ」
「アルファ2へ。ガンマ4、了解!」
 コードネーム“ガンマ4”を与えられた下士官に、“ガンマ1”が話しかけた。いずれも髪を五分刈りにした20代の男性兵士である。
「で、誰の指示だって?」
「は! ペイジ中佐殿であります!」
「けっ。あの不摂生オヤジか。どうせまたえげつないこと考えてるんだろ、胸くそ悪い」
 今回の作戦においても、メタルジャケット弾を装填したマシンガンを使う。しかも、近付く者はたとえ民間人であっても発砲しなければならないのだ。
 そのせいか、作戦前のブリーフィングの段階から、ガンマ1の機嫌は最悪だった。困った顔を向けるガンマ4に向かい、ばつの悪そうな顔をしたガンマ1は言葉を絞り出すように言った。
「わかってるよ。兵士は命令に従うしかないんだ。どうせ民間人ってのも、警察の手に負えない悪党どもに違いない」
 実際、ネオ・ジップには多くの悪党が住んでいる。しかし、ガンマ1は、情報部という組織がこなす作戦には非合法のものが多く含まれることを知っていた。
 もっとも、合法であろうとなかろうと、兵士は作戦に疑問を抱いてはならないのだ。ガンマ1は苦労しながらも軍人として頭を切り換えた。
 ガンマ4が叫んだ。
「曹長殿――ガンマ1! バイクが1台接近中です。民間人のようです」
「まだ作戦開始時刻じゃないよな。警告だけで済ませよう」
 銃を構え、バイクの進行方向を塞ごうとしたふたりの兵士を、陸軍情報部の士官が制止した。
「待て! あの民間人はアルファ1の“客”だ! 手出し無用!」
「コーエン少尉殿!? 本日の作戦はお休みのはずでは?」
「情報部の士官は20代のうちは休みを申請しても休めないことが多い。覚えておけ」
 その言葉に、この作戦終了後に少尉への昇進が決まっているガンマ1はげっそりとした顔をした。
「やっぱりねー。そうだと思っていましたよ」
 その呟きをあっさりと無視し、ユキはもう一方の下士官に声をかけた。
「ガンマ4、無線を借りるぞ!」
「は! どうぞ」
 手渡された無線の周波数を変更せず、ユキはそのまま呼びかける。
「アルファ2! アルファ3だ。アルファ1の“客”を確認。ポイント4・1・2を現在――通過!」
「アルファ3。アルファ2だ。了解! アルファ3はポイント0・0・0に戻られたし!」
「アルファ2。アルファ3、了解」
 通信を切ったのを見計らい、ガンマ1が文句を言う。
「そういうこと、ブリーフィングの時に言っておいてもらわないと……、下手すりゃ発砲してたところですよ」
 ユキにはガンマ1の文句は、民間人を撃たずに済んでほっとした気持ちの裏返しに思えた。軽くいなすように言う。
「まあそう文句を言うな。本来休暇のはずの私が呼び出されるほどだ。こういう作戦では多少の情報の混乱は覚悟しておけ。貴官らの判断で慎重かつ迅速に対応してほしい」
「はっ!」

*      *      *


 同じ時刻、無線を切った“アルファ2”は《ポメラニアン》への専用回線を開いた。こちらは陸軍情報部のそれよりさらに高度な暗号化無線である。
「デジル。ユキがうまくやってくれた。ポイント1とポイント2に穴が開いたぜ」
 無線の向こう側からは噛みつくような返事がきたので、アルファ2はヘッドフォンを耳から遠ざけた。
「パーマー! スレッジは大事に育ててる最中なんだ! 今度からはこういうことは先に俺を通せ! わかったな!!」
「文句は後でたっぷり聞く。何しろ情報部が相手だからな。準備から行動までの時間を極限まで短縮したかったのさ」
 叩きつけるような勢いで通信が切られた。スービィは口元だけをゆがめ、薄く笑った。
「大事に育てた……か。だったら奴の力をもっと信用してやりな、デジル」

 《ポメラニアン》の格納庫では、金髪の鬘をかぶったブースがエアバイクにまたがっていた。
「今のところ順調だが、相手は軍隊だ。絶対に無理すんじゃねえぞ、ゲイリー!」
 ブースの新しい名前はゲイリー・カーターに決めた。決めた時点でデジルは彼を本名で呼ぶことをやめたのだ。
「あんたにはせっかく拾ってもらったんだ。カナを連れて、必ずここに戻ってくる。しかし、スレッジって奴は街のために戦うってのか? よっぽど正義感が強いのか、単なるバカなのか」
「はん。正義? ありえねえ。バカが報酬に目が眩んだだけのことさ」
 ブース――ゲイリーが声を立てて笑った。
「何がおかしい?」
「いや……すまん、デジル。でも、あんたが本当にそう思っているのなら、スービィにあそこまで噛みついたりしなかっただろうな、と思ってさ」
「勝手に言ってろ」
 表情を引き締めると、ゲイリーはエアバイクのエンジンをかけた。
「行くぜ!」
「ああ、気ぃつけてな!」
 ゲイリーの手で水陸両用に改造されたエアバイクは、しばらく海上を飛んだ後、反重力システム無効地帯に入り込んでも水上を快調なペースで進んでいった。

(12)に続く



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( 2008/06/24 00:05 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(5)

【日記】執筆中 

すみません、鼻がちょっとのびてきたので原点を見つめ直しているいき♂です、こんばんは。
褒めていただけるのは本当に嬉しいことです。
そればかりか、ご意見をくださる方もいらっしゃいまして、ここまで連載を続けられたのも読んでくださる皆様のお力添えがあってのことだと思っています。
で、そろそろ。
ランキングに頼らなくても、モチベーションを下げることなく執筆を続けて行けそうかな、と。
でも、迷うのは、FC2以外のブログから見に来てくださる方の中には、ブログ村経由の方が多いという事実。
そう思うと、ブログ村をやめるのはもったいないかな、と。

FC2ランキングに関しては、登録しているのは当然FC2の方に限られるわけで、それなりの頻度で更新している人数も同じカテゴリにおいてはブログ村の10分の1ですからね。
いや、もちろん人数が少ないからと言ってもそこに登録している人のクオリティが低いだなんてさらさら思っていませんよ。
ただ、ファンタジー創作という同じ趣味を持っている人の目にたまたま触れて、サイトを訪れただけでなくいくつか読んでくだされば嬉しいな、と思っていただけでして、その目的は果たしたのかな、と^^
なので、今参加しているランキングのうち、FC2ランキングについては近々やめてしまおうかな、と思ってます(^^)

あ、そうそう、タイトルの「執筆中」は、今日記書いてるけど、スレッジの11話が日付が変わるか変わらないかというタイミングでアップできそうです。
どうでしょうね、ラストシーンまであと4話くらいでまとまるのではないかと(いつも予告より増えるから具体的な数字は言わない方が良いかも)^^;


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( 2008/06/23 21:23 ) Category 日記/世迷い言 | TB(0) | CM(2)

スレッジ・チェイサー (10) 

「だが、動かぬ証拠がここにある!」
「デジルが言ってた以上に青二才だな、お前は。国家権力を相手に証拠もへったくれもないだろうが」
 スービィの言いぐさに思わずむっとするスレッジ。彼の胸に手を添え、ミリィがなだめるような顔をして言う。
「そんなことより、スレッジ。《アースシェイカー》は実は自律行動できないみたいなんだ」
 子どもになだめられたスレッジはさすがに少し冷静になった。
「あ? 《アースシェイカー》って生命体なんだろ?」
「生命体だっていうのは情報部お得意の嘘情報だと思う。たぶん人型をした兵器――無生物だよ。今夜叩き起こして突然暴れ出したのも、外付けの装置で操ってた可能性が高いんだ。情報部の自作自演かも……」
 言葉を失ったスレッジ。ミリィは続けて言う。
「情報部のやつら、《アースシェイカー》にある程度暴れさせて、騒ぎを大きくすることで極秘開発の《パペット》を有耶無耶のうちに実戦配備するつもりなんだ」
「なに考えてやがるんだ、情報部はっ!」
 激昂するスレッジに対し、冷静な声でスービィが応じた。
「軍と兵器の必要性のアピールだな。素知らぬ顔して災害対策チームも軍が中心となって組織するだろうし。どさくさに紛れて市民団体による調査や憶測をかわすのも容易い。なによりもこれが一番の狙いだろうが、苦戦の末《パペット》が《アースシェイカー》をたおせば、世界中の軍隊から《パペット》の注文が殺到するだろうな」
 言葉を切ったスービィは、意味ありげな目でスレッジを見た。
「そこで、だ。俺が依頼人になる」
「……。依頼内容は?」
「情報部の連中が《アースシェイカー》を起動するのを阻止しろ。間に合わなかった場合は《パペット》どもより先に――街を破壊されるよりも先に《アースシェイカー》を破壊しろ」
「ってことは、4輪車じゃ通れないところをバイクで通れってことか」
「まあ、そういう場面も充分有り得ると思っている。情報部員と《パペット》どもをよけて《アースシェイカー》に近づけるのは、お前をおいて他にいないだろうからな。おっと、俺はデジルとは違うからな。武器は銃1挺とエネルギー・バレット2本だなんてケチなことは言わないぜ」
「報酬額も一応聞いておこうか」
 金額の如何に関わらず、スレッジは既にこの仕事を受ける気になっていた。
「3万ローエン出そう」
「ヒュー♪」
「明日決行だ。質問があれば今夜中に聞いてくれ」
 話が一段落しそうになり、ミリィがあわてたように付け加えた。
「あ、あとさ! カナさんも助けてあげられないかな?」
「そう言えば、ブースの彼女はどうして情報部に連れて行かれたんだ?」
 スービィは再び手に持っているユニットを示して見せる。
「まあ情報部としては、証拠も証人もきれいさっぱり消えてくれた方が都合がいいだろうからな」
「じゃ、カナとブースを会わせた上でまとめて消すつもりなのか!」
「だから、助けてあげてほしいんだ」
 懇願するミリィを見下ろし、スレッジは聞いた。
「カナって女と知り合いなのか?」
 ミリィは首を横に振った。
「ほれ。電話だ」
 突然スービィがスレッジにケータイを差し出した。
「?」
 耳に当てると、聞き覚えのある声が話しかけてきた。
「おう、スレッジか。カナを助けてくれ! まとまった現金はないが、ボトル1年分を無料でキープさせてやる!」
「キ……キャプテン!?」
 電話の相手はスレッジがいつも飲みに行く〈キャプテン・クック〉の店長だった。
「賞金稼ぎに頼むような仕事じゃないことくらい判ってる。だが、他に頼めるヤツがいないんだ……。カナは俺の……、俺の娘なんだ!」
「なにぃ!?」
 キャプテンがまだ20歳の頃のことである。当時つきあっていた女性が、キャプテンの航海中に出産していた。だが、彼女は理由も告げずキャプテンのもとを去っていったのだ。
 出産の事実を知らされたのはつい2年前――カナが成人してからだったとのことだ。亡くなってしまったカナの母親の遺言に従い、弁護士名義でキャプテン宛に手紙が届いた。カナの写真と母親のメッセージが入っており、カナは実父が生きていることを知らないとのことだった。因みに、キャプテンに結婚歴はない。
「今さら親だなどと名乗るつもりはねえ。気付いたときには大人になってたわけだしな。だが、俺の子には違いねえんだ……」
 スレッジは溜息をひとつつき、素っ気なく返事をした。
「なあ、キャプテン。あんたんとこの安酒、そんな大量にキープしたところで悪酔いに苦しむ日が増えるだけさ」
「頼む、スレッジ」
 キャプテンの声が懇願調になった。
「……半年だ」
「は?」
「ボトル半年分でいいって言ってるんだ」
「……! すまねえ、恩に着る!」
 終話ボタンを押したスレッジからケータイを受けとったスービィが教えてくれた。
「今は詳しい説明を避けるが、ミリィのやつ、昔っからキャプテンには随分遊んでもらっているらしいんだ」
「なに!? キャプテンって子ども好きだったのか……。そりゃ意外だ」


 陸軍情報部は強大な組織だ。正直、どこまで戦えるかわかったものではない。
 背にミリィの体温を感じながら、スレッジは初めて責任の2文字を意識していた。いや、実はもっとシンプルだ。
 ――街がどうなろうが知ったことじゃない。だが、ミリィだけは守ってやるぜ!
 口に出しては、別のことを言ってみる。
「失う物は何もない。3万ローエンのためにがんばるだけさ♪」
「嘘ばっかり♪」
 一緒に過ごしたのはわずか一晩だが、スレッジの単純さは既にミリィに見透かされている。
「何か言ったか?」
「なんにもー!」
 ――がんばってね、スレッジ。
 ミリィは、スレッジの背中にきつく抱きついた。
「早速お出ましだ! 少し跳ねるぞミリィ、そのまま力抜くなよっ!」
「うん!!」
 4体の《パペット》が視認できた。スレッジは前方を睨む。普段からあまり目付きがいいとは言えないスレッジだが、その三白眼は視線だけで相手に穴を開けるかと思われるほど鋭さを増した。
 立ちふさがる《パペット》どもを、スレッジはエアバイクの前輪でなぎ倒しては進んでいく。
「おらー! どけええ!!」
 2体、3体、4体! ひとまず、見渡す範囲に障害はなくなった。
 目的地はネオ・ジップ最北端の郊外。距離は約20キロ。
 その場所に《アースシェイカー》が眠っている。軍による作戦開始時刻は午後3時、現在時刻は午後2時半。巡航速度40キロ以上で走れば間に合う計算だ。
 バイクの整備と、ミリィによる最適経路の割り出しおよび“電波の傘”ポイントの仕込み。加えて、直前になってからの作戦変更の有無を監視するためのハッキング。
 さらに、こちらの動きを察知され、必要以上に厳重な対策をとられないようにするためにもあまり早くから《アースシェイカー》に近付くわけにはいかない。
 それらを勘案した上で、行動開始がこの時間となったわけだ。だが。
「余裕!」
 一陣の風と化し、スレッジのバイクは路上を滑っていった。

(11)に続く



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( 2008/06/21 05:55 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(8)

スレッジ・チェイサー (9) 

 ゆったりとした応接セットのソファに座ったカナの正面に、50がらみの将校が座っていた。短めの銀髪には白いものが混じっており、やや脂ぎった顔をした将校だ。ここはカナが寝かされていた部屋とは別の部屋である。
 カナは見るともなしに目の前の軍人を観察した。身長は174センチだが体重は90キロくらいありそうだ。とくに腹周りが大きい。軍人にしてはいささかしまりがない印象だ。
軍人たるもの、下士官は日々の鍛錬により筋肉質の者が多く、士官は節制を身上としてスリムな者が多いと思っていたカナだったのだが、偏見だったようだ。
「まずは、お宅にお送りせず、このような場所にお連れしたことをお詫びします。私は陸軍情報部のバート・ペイジ中佐です。政府の密命で動いております」
 小さめの青色の目は目尻が下がっていて、口調の端々には優しげな印象を醸し出そうという意図が垣間見える。しかし職業柄、カナは目の前の将校が時折瞳に宿す剣呑な光を見逃すことはなかった。
「あたしは何のために誘拐され、拉致されているのかしら」
「認識に違いがあるようですな。拉致ではなく保護さしあげているのです」
「?」
 カナは気怠げに首を傾げ、疑問を表明した。
「あなたの恋人を追っている連中がいるのはご存知ですかな? 奴ら、あなたをエサにノイルさんを捕まえようとしていたのです」
「ちょっと待って。私自身は賞金首じゃないわ。いくらハンターライセンスがあったって、そんなあからさまな違法行為は刑事罰の対象になるでしょう?」
 ライセンスで免除されるのは交通違反や相手が賞金首だという前提における暴力行為、それに伴う器物損壊だ。それとて、被害者による民事訴訟を起こす権利がある。
「ちょっと事情が複雑でしてね。ノイルさんを追っているのは賞金稼ぎだけとは限らないんですよ。ノイルさんはまだ誰にも捕まっていません。あなたがこのままご自宅にお帰りになれば、すぐにまた何者かに狙われます」
「で、夕べはその何者かに誘拐されかけたあたしを助けてくれたと言うの? 陸軍情報部が」
 説明に無理がある。警察でさえ賞金首の捜査を賞金稼ぎに任せっきりにするようなご時世なのだ。軍が一市民のためにガードマンのような仕事をするわけがない。何か別の理由があって自分を軟禁しているに違いないのだ。カナは確信に近いほどの強い疑いを視線に込めてペイジ中佐を睨んだ。
「話が見えないわ。政府の密命で動くほどの方々が、あたしなんかに構って何の得があるのかしら」
「正直に申しますと、我々はあなたよりもノイルさんに興味がある。しかし、ノイルさんは現状を正しく認識できておらず、近付く全ての者から逃げ続けている。そこで、あなたにはノイルさんの誤解を解いてほしいのです」
「ブースは殺人犯よ。何を誤解していると言うの?」
 ペイジ中佐が目配せをすると、後ろに直立不動で控えていた若い下士官が端末を操作し始めた。
「ノイルさんは、人殺しをしていないかも知れない。いえ、していないと断言しても良いでしょう」
「なんですって!?」
「これをご覧ください」
 下士官がリモコンのスイッチを押すと、端末のモニタに映像が表示された。


 何の店かはわからないが、防犯カメラの映像であろう。店の出入口を俯瞰するアングルで撮影されている。
 やがて、ある人物が画面に現れた。その人物をカナは知っていた。もっとも、ニュースでの映像を通して知っているだけだが。
「ブースが殺した麻薬の売人……」
 カメラ側に体の正面を向けていた売人は画面の奥――つまり店の外を振り向いた。
 次の瞬間何者かに襲われ、売人は店の床に殴り倒された。
「!!」
 カナは息を呑んだ。
「な……なんなのこの化け物! ガラクタ人間!?」
 一見、金属の骨格が剥き出しになったロボットのように見えなくもない。しかし実際は、放置自転車やら折れた傘やらが集まって人の形を模した化け物――そいつが、売人を殴り倒したのだ。
 起き上がった売人が化け物の腹のあたりに掴みかかる。何かをもぎ取るような動作を見せた次の瞬間、ガラクタ人間の体はばらばらになって崩れ落ちた。売人の手にガラクタ人間の部品が残る。しかし、売人の腹にはガラクタ人間の部品が突き刺さっていた。力尽きた様子の売人は仰向けに倒れてしまう。
 少し間を置き、普通の人間が売人に駆け寄った。彼は売人を助け起こした。
「ブース!」
 間違いない。ブース・ノイルである。
 ほぼ同時に、別のガラクタ人間2体が画面に映り、店の入口から入ってきた。
 近寄ってくるガラクタ人間ども。ブースは、売人を襲ったガラクタ人間の体を構成していた部品のひとつを拾い上げ、ガラクタ人間どもを目がけて振り回す。
 ガラクタ人間どもと店の入口の間に隙間ができた。機を逃さずにブースは走り、店の外へと逃げ去ってしまった。
 いまひとつ確認しづらいが、逃げ去る間際の彼の手には、売人がガラクタ人間からもぎとった部品が握られていたようだ。売人を助け起こした際に部品を受け取っていたらしい。


「なぜ……なぜ、これをニュースで流さないのよ! これがあれば、ブースの無実は証明されるのに!」
 カナはソファから腰を浮かし、興奮して叫んだ。
「このガラクタ人間どものことを、我々は便宜上《パペット》と呼んでおります。このように被害者が出ている以上、何者かによる侵略行為と見做すしかありません。しかし現在、地球上のどの国にもガラクタを人型に組み立てて自律行動させられるような技術を実用化させているところはありません」
 そこまで言ってからペイジ中佐も立ち上がり、静かな声で続けた。
「つまり……。地球外生命体による侵略行為。我々はそのように考えております」
「異星人だって言うの……?」
 カナは聞き返し、口をぽかんと開けてしまった。
「そうです。これが国民の目に触れれば、まず間違いなくパニックに陥るでしょう。しかしもう間もなく、我々の開発した兵器により全ての《パペット》を沈黙させられます」
「じゃ、ブースは逃げ回らなくていいのね!」
 初めて笑顔を見せるカナに、ペイジ中佐も笑顔で頷いて見せた。
「そうです。少なくとも我々からは、ね」
 しかしすぐに表情を引き締めて言った。
「彼が持ち去った部品は《パペット》をたおすためのキーアイテム。しかし、他国の情報部がこのことに気付いていないという保証はない」
「! ブースは外国の情報部に狙われているっていうの!?」
「あくまで可能性です。そこで、先ほども申し上げましたが取り引きです。あなたとノイルさんの安全を保証するかわりに、あなたにノイルさんを説得していただきたい」
「でも、彼の居場所がわからないわ」
「その点についてはお任せを。毒をもって毒を制す。賞金首を探すには賞金稼ぎを雇うのが近道。あなたには我々が雇った賞金稼ぎと同行していただき、ノイルさんのもとに向かっていただきます」
 ――誰が毒よ。
 カナは、ペイジ中佐の何気ない言葉に相手の本性を感じつつ、気付かないふりをしておとなしく座り直した。
 その時、扉がノックされ、別の下士官の男が入室してきた。
「中佐! 報告します。アイクから連絡が入りました。ノイル氏の潜伏先を掴んだとのことです」
「うむ。アイクを雇ったのは正解だったな。優秀な賞金稼ぎだ」
 満足そうに下士官にうなずいたペイジ中佐は、カナの方に向き直って言った。
「急な話で誠に申し訳ない。本日ただいまから賞金稼ぎのアイクたちと行動をともにしていただきたいのですが。我々もお供しますが、離れた場所からついていきます。軍がいたのではノイル氏が警戒して逃げてしまうでしょうから」
 カナは無言で大きくうなずいた。カナの気持ちは、今日中にも会えるであろうブースのことでいっぱいになっていた。

*      *      *


 ミリィの整備は完璧だ。あっという間にバイクの限界性能を引き出したスレッジ。高まる集中力の中、頭の片隅で夕べの会話を反芻した。


「いや、コトはそう単純じゃない。怪物の強さも大体判っていた上でワザと逃がした可能性が高いんだ」
「な! どういうコトだ!?」
「デモンストレーションさ。この国の軍事力の回復を世界に示すつもりなんだ」
 スービィの言葉を聞いたスレッジは、ようやく事態が呑み込めてきた。
「怪物を……、《アースシェイカー》と《パペット》どもを一撃でたおせるような兵器を開発したんだな、軍は?」
「たぶん、そっち系の兵器も開発自体はとっくにしているだろうな」
「なんだよ、その微妙な言い方……」
「あのさ、スレッジ。情報部の奴ら、《アースシェイカー》を簡単に止めるつもりはないんだ」
 ミリィが口を挟んだ。淡々と話すスービィとは対照的に、声に怒りを滲ませている。
「《パペット》を使って、徐々に鎮圧した体(てい)を装って止めるつもりなんだ」
「おいおいミリィ。《パペット》ってのも異星人……かどうか知らないけど、《アースシェイカー》の仲間なんだろ?」
 スレッジの目の前に、スービィがある部品を突き出した。
「このロゴ、わかるか」
「クリント重工だろ、超一流企業の……。バカにしてんのか?」
 それは、カナが見せられた映像の中でブースが持ち去った部品であり、スービィがブースから預かったものである。
 実は《アースシェイカー》の研究過程における副産物は反重力システムだけではなかった。《パペット》も副産物のひとつだったのだ。情報部が兵器利用を前提に開発したもので、言わば純地球産――もっと言えば国産の技術なのだ。
「じゃ、あの220ローエンの賞金首……、無実だってのか」
「もっとも、国家権力どもは無実にするつもりはさらさらないだろうが、な」
「だが、動かぬ証拠がここにある!」

(10)に続く



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( 2008/06/20 18:46 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(6)

【キャラ絵】スレッジ 

私の落書きについてはさくっと忘れてくださいね。
あぁだめですよそこのあなた。6月17日の1本目の記事を見ないようにね。ね!

yamineko♪様からいただきました!!
いつもありがとうございます♪

「スレッジ・チェイサー」より……
スレッジ・マークス
Sledge Marks
25歳。孤児。
184センチ、66キロ。
元レプリカマシン(2輪)レーサー。
所属チームのオーナーによる八百長が表面化し、チーム解散。
賞金稼ぎの相棒を探していたデジル(当時は一匹狼)にスカウトされる。
デジルはコンビ結成を機に《ポメラニアン》を購入。
以後《ポメラニアン》がスレッジの根城となる。


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( 2008/06/20 00:51 ) Category 頂き物(イラスト) | TB(0) | CM(4)

スレッジ・チェイサー (8) 

 クローゼットはウォークインタイプの相当広いものだった。ユキは「いくつか入っている」という言い方をしていたが、ジャージからカクテルドレスに至るまで、豊富な種類の服が用意されていた。
 カナは散々迷った挙げ句、タンクトップとジーンズを身に着けた。
 入浴を終え、化粧を落としたカナの外見には、まだ少女の面影が色濃く残っている。彼女が勤めている店は客に酒を出す店で、酒の苦手な彼女は18歳だということにしているが、実際は22歳である。
「12時までまだ3時間以上あるわ。ユキさん、あたしと年も近いしお話しない?」
「世間話は苦手ですので」
 間髪を置かずに答えるユキを、カナはまじまじと眺めた。もしかしたら幼い頃から軍に入隊することだけを考え、訓練に明け暮れていたのだろうか。本当に雑談が苦手なのかもしれない。カナは自分の想像に基づきそんな感想を持ったが、それがかわいそうなことなのかどうかについては判断がつかない。
「他に御用がなければ部屋の外で控えています。御用があれば、ベッドのところにある電話を使ってください」
 ユキが指し示す電話は、どうみてもホテルのフロントコールである。
 一旦出ていこうとしたユキは、すぐに立ち止まって振り返った。
「?」
「朝ご飯はこちらに用意してあります」
 ユキが指差す方を見ると、ホテルのルームサービスのようにワゴンの上に半球型のふたを被せた食事が用意されている。
「苦手なものやお食事の希望は、なんなりとお申し付けください」
「ちょ……。それって、この先何日も外に出してもらえないってこと?」
「そのあたりのことも中佐から説明があるとは思いますが、この施設内のフィットネスや娯楽施設のご利用に関しては特に制限がないでしょう。……監視はつきますが」
 ごく事務的に答えてはいるが、カナにはユキが少し困っているように見受けられた。
「……ふ。うふふ」
「?」
「いえ。あなたを困らせるつもりはないの、ユキさん。仕事しなくてものんびり過ごせるだけマシかな、って。そんなことを考えてる自分がおかしくてね」
「そうですか。今すぐにでも元の生活に戻りたいと思っていらっしゃるとばかり……」
 それまでの話し方はずっとハキハキしていたユキだったが、珍しく語尾を濁した。
「最低の生活よ。でも、そのうち自由が恋しくなるかもね」
「……。失礼します」
 何かを言おうとしてやめた様子のユキを黙って見送り、カナはひとりごちた。
「嘘よ。元の生活だって、決して自由とは言えないわ」

*      *      *


 エアバイクのフロントパネルに繋いでいたケーブルを外し、端末の前から離れたミリィは大きく伸びをしてから言った。
「うん。準備おっけー。さ、いこ♪」
 スレッジは顎に手を当て、ミリィをまじまじと見つめている。
「どったの、スレッジ?」
「あーいや、錯覚だろう、多分」
 スレッジが倉庫の外にバイクを出し、エンジンをかけているとミリィがタンデムにまたがった。
「よろしくぅ、スレッジ!」
「なんだかなぁ。まるでピクニックにでも行くみたいだ……。しっかりつかまってろよ」
「はーい」
 スレッジが背に感じた感触は――。
「な!? お、女の子!?」
「あれぇ? 言わなかったっけ」
 さっきミリィが伸びをしたとき、やけに胸が大きいと思ったスレッジだったが、錯覚ではなかったのだ。
「道理で……。男にしちゃかわいいとは思っていたが」
「うはは。微妙にセクハラっぽい発言だけど、スレッジだから許す♪」
「それはどうも。じゃ、行くぜ」
 スレッジはエアバイクを発進させた。


 夕べのスレッジによる賞金稼ぎふたり組の追跡は、スービィが仕組んだものだった。あわよくばカナも奪還するつもりだったが、主な目的は賞金稼ぎの車に発信器を取り付けることにあった。
 しかし普通に発信器を取り付けても、すぐに発見されてしまう。そこで、ミリィが作り出す“電波の傘”――電子機器による探知不能ポイントに誘い込む必要があったのだ。
「この1年間お前さんの働きを陰から見てたんだがな。お前さんなら女を気絶させてさらっていく連中を追っかけるに違いないと思ったのさ。お陰で奴らを“電波の陰”にうまく誘い込むことができた」
 スービィにそう言われたスレッジは、見透かされたような発言が気に入らずに反論を試みた。
「反重力システムがダウンしなかったら、あのままブースを追っていたはずだぜ」
「あのタイミングでシステムがダウンすることは、ふたり組を雇った連中は予め知っていたのさ」
「なんだって?」
 スレッジの疑問に、ミリィが答えた。
「わざと《アースシェイカー》を長い眠りから叩き起こしたんだよ、あいつら」
「あーすしぇいかー?」
 スレッジにとっては初めて聞く単語だった。
 42年前の大震災は一般的には自然災害だと認識されている。しかし政府と軍は情報を隠しているのだ。
「どこから来て、いつの間に棲み付いたのかわかんない怪物が、地面の中で暴れたんだってさ」
「おいおいミリィ。初めて聞く奴に説明するにはちょっと不親切な言い方だぞ、それ」
 軍の研究班によれば、ここから離れた場所――人類の観測範囲外の異なる時空間から突然直径10メートル程度の物質が転移してきたという説が有力である。その際に生じた破壊的なエネルギーが大震災を起こしたと見られているのだ。
 転移してきたことが確認されている地球外物質というのは巨大な怪物が1体。便宜上《アースシェイカー》と名付けられた。生命体であることは確認されているが、発見以来42年間眠り続けてきたのだ。
 また、それと関係があるのかどうかは不明だが、震災の直後から何回かにわたり、その辺のゴミのような物質が人型に寄せ集まってふらふらと行動する現象が確認されている。その人型のことは便宜上《パペット》と呼ばれている。
「反重力システムが震災後わずか数年で突然実用化されたのは、軍の研究班が怪物の調査をした際の副産物のようなものらしい」
「で、さ。僕が軍のコンピュータをハッキングしてわかったんだけど。今日が《アースシェイカー》を叩き起こす日だったのさ。で、起こした瞬間にここら一帯の反重力システムがダウンすることもわかってたらしい」
「ふ。起こし方はわかってたけど、起こした途端に逃げられたってのか。間抜けだよな、軍も」
 スレッジが笑うと、スービィは真面目な顔で否定してきた。
「いや、コトはそう単純じゃない。怪物の強さも大体判っていた上でワザと逃がした可能性が高いんだ」
「な! どういうコトだ!?」


 背中からミリィが叫ぶ声が聞こえてきた。スレッジの回想は中断した。
「スレッジ! モニター見てる? 奴ら、動き出したよっ」
「了解だっ!」
 フルスロットル。元レーサーの腕の見せ所だ。

(9)に続く



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( 2008/06/19 01:01 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(0)

【日記】森功至さん 

森さんの声といったら、私にとってはマッハGO!GO!GO!とガッチャマンかなあ。
ふふん、もうトシ隠してないからいいもんっ♪
あぁ、あと1st ガンダムのガルマね。

最近はめざましテレビの7時台のニュースでナレーションをやってる。
うっかり「あ、森功至だ」などと言おうものなら妻からヲタク呼ばわりされるので黙っているが。
※元ヲタクです。現役ぢゃない。

そんな森さんが、久々にアニメで主役やってたので、見てみた。
元ヲタクの元が消えそうだな、おい(^^;
「RD潜脳調査室」ってタイトルだった。
世界観は攻殻機動隊ともしかして共通? いや、ちょっと違うか……。
約50年寝たきりだったのが回復して、81歳の主人公という設定が斬新だった。
ダイブすると50年前の容姿になるのだが。
いやー、トシとった声も若い声も普通に演じ分けちゃうベテランの森さん、今でも良い声だわー。
女性だと林原めぐみさんの声、好きだわー。

しずまれ俺のヲタク魂。むぅ。いまだにくすぶり続けていたか。意外だ(^^;


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( 2008/06/18 19:02 ) Category 日記/世迷い言 | TB(0) | CM(12)

【日記】ヘタレですがよろしく^^ 

一部の方々にはコメント魔だと思われているかもしれません、いき♂です。
こんばんは^^
実際のところ、そうでもないですよ。
何度もお邪魔して足跡をつけておきながら、結局コメント(したいのに)できずに回れ右してしまうこともあるんです。
そんな私だから、他人様にコメントを強要するようなことは絶対にいたしません。
でもコメントいただけたら喜びますよ、ということを言いたかったんでエントリを起こしました。

ええと(^^;
以前、なすがぱぱさんのところでも似たような意見を書いてきた覚えがあるのですが。
基本的に、みんなが同じ方向を向くなんて有り得ないと思ってます。
立場も、育ってきた環境も違うんだから、それぞれの考え方があって当然。

なので、小説であれば変なところはどんどんご指摘いただければ可能な範囲で修正しますし、日記であれば反対意見はどしどし書き込んでいただいて構いません。
※そんなこと書きながら、他人様のブログを訪れた際、基本的には賛同できる日記や面白いと思った記事にしかコメントをしてきていない気がするけれどもね、私(^^;


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( 2008/06/18 18:37 ) Category 日記/世迷い言 | TB(0) | CM(14)

スレッジ・チェイサー (7) 

「ネオ・ジップを突如襲った反重力システムの無効化現象は局地的なものですが、依然復旧の目途が立っておりません。そんな中、昨夜7時ごろに何者かによる破壊活動が行われ、周辺地域は一時騒然としました。警察の発表によると、テロリスト6名を射殺、しかし少なくとも4名は現在も逃走中とのことです」
 早朝の時間帯としては珍しく、叫ぶように原稿を読み上げる女性リポーターが画面に映っている。軍と警察が封鎖のために張ったロープのすぐ外側からのライブ映像だ。
「通常車輌とヘリによる捜査は難航しており、逃走したテロリストの足取りは掴めていないとのことです。警察では現在、射殺した犯人たちの身元を調べており……、はい! はい」
 女性キャスターがアナウンスを中断し、イヤホンに手を添えた。その直後、画面外側のスタッフから新たなニュース原稿を受け取る。アナウンスを再開した。
「新しい情報です! 射殺した犯人たちのつながりがこれといって見当たらず、警察は、ここ数年の間に結成された新しいテロ組織が最初の犯行に及んだものとの見方を強めています。また、間もなくテロ組織から何らかの犯行声明が出されるものと見られており、警察ではテロ組織の意図がはっきりするまでの間、市民の皆さんはできる限り外出を控えるようにと呼びかけています」

 今、《ポメラニアン》にはゲストがひとり乗っている。デジルはモニターから目を離し、目の前に座る賞金首を一瞥した。自分の禿頭を撫で、コーヒーを音をたてて啜った。何ごとか考え込みながら話しかける。
「で? あんたが売人を殺ったわけじゃないって証拠は示せるのか?」
「無理だ。何の証拠も残っちゃいない。だが、俺は冤罪のまま服役してもいいと思っている。ただ、カナだけは! 何とか、元の生活に戻してやってくれないか」
 答えた男はブース・ノイル。短く刈り込んだ黒髪の、浅黒い肌をした唇の分厚い男だ。もう金髪の鬘をかぶってはいない。
「……惚れてるのか」
「答えるまでもない」
 即答。
 デジルはひとつ溜息をつき、ブースを値踏みするように見た。
「あんた、整備士免許持ってるんだってな」
「? ああ、殺人容疑で追われる前は修理工場で働いてた。その前はレーシングチームのメカニックをやったこともある」
 質問の意図が判らないまま、とりあえず聞かれたことに答えるブース。
「エアバイクはいじれるか?」
「ああ。どのメーカーだろうが部品さえありゃ修理できるが?」
 先を促すブースを無視し、デジルはケータイを操作した。
「俺だ。ちと頼みたいんだが。DLとML、ひとり分。ああ、そうだ。幾らだ? ――わかった。ああ、二日後にいつもの場所だな」
 まだよく事態が飲み込めず、ブースは聞いてみた。
「なんだ? 何を……」
「あんたをメカニックとして雇う。名前を変えるんだ。一生引き受けるなどとは口が裂けても言えないがな。だが、運転免許(DL)と整備士免許(ML)さえあれば、その気があれば小さな修理屋を自営することだってできるだろ。偽造だからでかいところに潜り込んで仕事するのは難しいけどな」
 ブースは口をぽかんと開け、次いで弾かれたように立ち上がった。190センチを超す巨体を折り曲げ、デジルに歩み寄って土下座した。
「ありがたい! この恩は一生忘れねえ!」
「やめてくれ……。あんた無実なんだろ? それより、こき使うから覚悟してくれ」
「ああ! なんでもするさ!」
「ふむ。では早速」
 デジルはにやりと笑った。
「?」
 ブースは若干気圧されつつも、やる気満々の光を瞳に灯した。

*      *      *


 カナが目をさましたのは朝になってからだった。そこは彼女が今まで住んでいたアパートの倍はある広い部屋。豪華なマンションといった感じの部屋だった。
「!」
 ベッドから身を起こしかけたカナは、あわててタオルケットをたくしあげる。一糸纏わぬ姿で寝ていたのだ。
「大丈夫です。ここには私以外誰もいません。着替えはあなたのサイズに合うものがクローゼットにいくつか入っています。洗顔セットはここです。化粧品もあちらに一通り揃っています。足りないものがあったら私に言ってください」
 陸軍の制服に身を包んだ若い女性がカナに話しかけてきた。にこりともせず、事務的に一息に説明する。
 カナは彼女を観察した。黒髪のベリーショートの痩せぎすの女性だ。スリムなカナよりさらに細いが、細く尖った顎と細く吊り上がりぎみの黒目のせいか、見る者に鋭角的な印象を与える。身長は164センチ。カナは155センチなのでおよそ10センチ違う。
 彼女はカナが何も言わないうちに自己紹介した。
「ユキ・コーエン、23歳。ネオ・ジップ陸軍少尉です」
「軍が、あたしに何の用?」
 ユキは初めて表情を変え、カナに答えた。
「さあ? 私はあなたの世話係を仰せつかっただけなので。外出以外の事であれば、できるだけ不自由のない生活を提供します。なんなりとお申し付けください」
 ユキのぎこちない表情は、冷たい印象をさらに濃くしただけだったが、おそらく笑おうとしたのだろう。
「本日は12:00時にペイジ中佐からあなたに説明があるそうです。それまではおくつろぎください」
 カナは理由もわからず軟禁されたのだが、相手の言うことが本当なら自分を軟禁したのはネオ・ジップ正規軍であり、ひとまずこちらに危害を加えるつもりはなさそうだ。
 ユキと名乗る女性の階級が嘘でないなら、単なる世話係とは思えないが、今はあれこれ詮索しても仕方がない。
「シャワー、浴びてもいいかしら?」
 カナは完璧な営業スマイルを浮かべ、ユキに言った。
「バスルームはこちらです」
 ユキはもとの無表情に戻り、見ればわかることをいちいち案内してくれた。

*      *      *


 スレッジはエアバイクを丹念にチェックしていた。
 倉庫にはスービィがエアバイク用のスペアパーツを用意してくれていたのだ。スレッジは元レーサーではあるが、「走り」専門なのでメカにはさほど強くない。
 メンテしやすいように設計されたエアバイクではあるが、タイヤ交換その他の大まかな作業はスレッジが行い、バランス調整その他の細かい作業はミリィが行った。
 ミリィは今、端末の前に座って何やら作業をしている。
「お前、ガキのくせにすげえな! 天才プログラマは天才メカニックの才能もあるってか?」
「うーん。他人と較べたことがないから、僕が天才かどうかは知らないけどさ。昔っから同級生の誰よりも機械いじりが好きだったことは間違いないよ」
 スレッジはエンジンをかけ、倉庫内を少し移動する。
「うん。いい感じだ」
 エンジンを切ると、ミリィを見た。
「ん? なに?」
「ホントは色々聞きたいところだが……。時間もないし、ひとつだけ聞く」
 ミリィは端末を操作する手を休め、スレッジの方を向いた。
「お前、弟とはどういう関係なんだ?」
「あー……。僕は今でも兄弟のつもりだけど。向こうは僕のことを異星人だとでも思ってるのかもね」
「はぁ!?」
 意味が分からず、頓狂な声を上げるスレッジ。
「多分、向こうは容赦なく攻撃してくるよ。だからスレッジも、僕の弟だと思って遠慮しなくていい。敵だと思ってね」
 言葉の内容とはうらはらに、ミリィはにっこりと笑いかけてきた。
「んなこと笑顔で言われてもなぁ……」
「さて。僕の方は作業が一段落したよ。スレッジはどう? 昼ごはん、食べよ♪」
「あはは……」
 スレッジは、つい今し方まで感じていたレース前のような緊張感が氷解していくのを感じていた。

(8)に続く



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( 2008/06/17 18:47 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(4)

【落書き】スレッジ初描き 

sledge.jpg

主人公のスレッジ。こんなイメージのつもりだったりするんだけど。。。


とくに絵師様は見ない方がいいですよ。画力が低下すること請け合いw



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( 2008/06/17 18:37 ) Category 落書き | TB(0) | CM(2)

スレッジ・チェイサー (6) 

 スーツの男は片手でアイクの身体を持ち上げている。
「な……んて……怪力……だ」
 まずいことに気道を押さえられている。ろくに呼吸もできない。アイクは相手の腕を殴りつけ、必死の抵抗を試みるが全く敵わない。まるで鉄の棒を殴りつけているような徒労感が募り、疲労の蓄積が加速する。
 早くも朦朧としかけた頭でアイクは思った。
(こいつこそサイボーグかもしれん)
 車の後部ドアが開き、マークが降りて近付いてくるのがアイクの視界に入った。
「い……かん、来……るな!」
 ――この男、普通じゃない。
 アイクは相棒に警告をしたつもりだったが、ろくに声にならなかった。
「離してください」
 ごく落ち着いた声でスーツの男に声をかけるマーク。
「ガキに用はない。お前こそ離れていろ」
 男はマークには全く関心がない様子だ。
 構わず歩み寄ったマークは、スーツの男の肩に手を触れた。
「――!?」
 スーツの男はアイクを落とすように解放し、地面に両膝と片手をついた。落とされたアイクは地面に転がり、激しく咳き込みながら空気を貪るように吸い込む。
「あなたが何者か知りませんが、僕らの依頼人の邪魔をするなら次は覚悟をしておいて下さい」
「貴様――」
 スーツの男は気絶こそしなかったが、麻痺したように体が動かないようだった。
 マークとスーツの男のやりとりを聞くことができたのかどうか。その瞬間、アイクの意識は深い闇の底へと沈んでいった。
 マークは小柄で華奢な外見に似合わず、アイクを軽々と運んで車の後部座席に乗せ、自らは運転席に乗り込むと走り去っていった。

*      *      *


 倉庫の扉は開いていた。
 スレッジがバイクごと飛び込むと、直後に自動で扉が閉まっていく。
 閉まる扉の隙間から覗くと、ワニ・ナビが《パペット》と言ったゴミ人間どもはおよそ10体ほどふらふらと歩いているのが見えた。奴らはこちらへの興味を急に失ったかのように別々の方向へと歩き去っていく。
 暗かった倉庫内に電気が灯り、小柄な人物がスレッジに話しかけてきた。
「いらっしゃーい! はじめまして、スレッジ」
「その声……。お前か、このナビ・プログラムを作ったのは」
 ワニの合成音声と同じ声。ワニの声は目の前の子どもの声をサンプリングしたものに違いない。
「そうそう。僕、ミリィ。ミリィ・ポー。よろしく。あと、そのワニ、僕の声に応じて適当に口パクするだけのプログラムだよ。合成音声じゃなくて、直接僕と通信してたの」
 端末の前に座っていたミリィは自己紹介しながら立ち上がった。身長は160センチにわずかに届かない程度だろう。184センチのスレッジより25センチくらい低い。野球帽からはみ出す赤毛は肩に届くくらいの長さだ。鳶色の大きな瞳を真っ直ぐ向けて笑いかけてくる。その人懐っこい印象に、スレッジの警戒心は薄れた。
 だが、一応聞いてみる。
「何者だ。どうやって専用回線に割り込んだ?」
「うーんと。何から説明しよっかなー」
 その時、倉庫の裏の扉が開き、高そうなスーツを着た男が入ってきた。
「俺から説明しよう」
「誰だっ!」
 銃を抜き、麻痺モードに合わせて身構えるスレッジ。
「人を見た目で判断するもんじゃない。たしかに俺はスジ者っぽく見えるだろうが」
 スーツの男は肩の高さに両手を挙げ、おどけた口調で話しかけてくる。
「俺はスベラルニー。スービィと呼んでもらって結構だ。……ああ、お前の相棒は俺のことを苗字で呼ぶけどな」
「デジルの知り合いか」
 言いながら銃をしまうスレッジを見て、スービィが薄く笑う。
「若いな。相手を信用するのが早すぎる。まあ、その辺の感覚はおいおい身に付けていけばいいが」
 若干顔を赤くするスレッジを見て、ミリィが笑った。
「あはは、スレッジかわいい! ドンマイ、ドンマイ!」
「うっさい! ガキになぐさめられたら逆にみじめだっ」
 スービィの咳払いが聞こえてきた。
「お前の相棒は、俺のことをパーマーと呼ぶ」
「! 情報屋か!」
 今スレッジの目の前に立っている男こそ、今までデジルとの間だけで連絡をとっていた情報屋だったのだ。
 ミリィがスービィに話しかけた。
「ねえスービィ。カナさんは?」
「連れて逃げられた。アイクの連れの赤毛のガキがやたら強かった」
「それって多分……、僕の双子の弟だよ」
 あっさりと言ってのけるミリィに、スービィが驚いた顔を向ける。
「なに? じゃ、あいつがマークだって言うのか。たしかに赤毛だったが、お前より5センチくらい背が高くて、目もお前より細かったぞ」
「あー、やっぱ間違いなさそう。なんというか……。僕ら二卵性双生児だし。双子だからってそっくりな外見とは限んないし。でも、その辺の兄弟くらいには似てると思うんだけどなぁ」
「なるほど。でもこれでガキに敵わなかった理由がわかった。少しほっとしたよ」
 スレッジは言葉にならない疑問を視線に込めてスービィを見る。スービィは曖昧な笑みを返し、両手を横に広げて見せた。
 ミリィが端末を操作すると、画面にニュースの映像が表示された。
「本日午後7時ごろ、何者かによる破壊活動が行われた模様です。ネオ・ジップ陸軍と警察機動隊の協力による鎮圧作戦が功を奏し、事態の沈静化に成功しました。ただし、テロ実行犯の一部は逃走を続けている模様で、一部道路の封鎖について解除の目途は立っておりません。封鎖中の道路を読み上げます。東2番ストリート、西4番ストリート……」
「なんだよ、この映像……」
 スレッジの目に飛び込んだのは、武装したテログループと陸軍および警察機動隊が撃ち合っている映像だった。
「情報操作だ。いつの時代も変わらない。政府も軍も、都合の悪いことは市民に知られたくないのさ」

 およそ4時間が経過した。そろそろ日付が変わろうかという時間である。
 スービィから一通り説明を受けたスレッジは、ぐったりとした顔を向けた。
「たしかに報酬は魅力だけどさ……。命がいくつあっても足りねえぜ」
「まあ、今夜はぐっすりと休むことだな。メシと寝床は用意してある。リラックスしてくれ」
 ――そもそも、あんたでなければ可能性すらないんだからな。
 そう言ってスービィはスレッジの肩を叩くと、倉庫の裏口から出て行ってしまった。
「用意のいいことで。感謝で涙がちょちょぎれるぜ……」
「食べよ、食べよ♪」
 緊張感の微塵もないミリィを、スレッジは不思議な生物を見るかのような目つきで見つめた。
「?」
 不思議な生物は、既に弁当のフタを開けて食べ始めていた。

(7)に続く



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( 2008/06/16 19:19 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(0)

スレッジ・チェイサー (5) 

 ついさっきまで真後ろに張り付いていたバイクのエンジン音が遠ざかる。ミラーに目をやったが、眩しかったライトはもう映っていない。
「マーク! バイクはどこへ行った?」
 運転席のアイク・ホイが前方に目を向けたまま聞いた。褐色の髪を短く刈り込んだ賞金稼ぎである。
「さっきの道を逆に曲がりました。もう追ってきていません」
 後部座席から相棒が返事を寄越した。相棒は長めの赤い巻毛の持ち主である。華奢な体型と微妙に高い声――まだ少年だ。中性的な整った顔の印象と相俟って、かなり子どもっぽく見えるが、おそらく10代後半であろう。
「ふん。今どき走り屋か? 俺たちを追ってたんじゃなく、ただ煽ってただけか……」
 拍子抜けしたようにアイクがつぶやく。32歳のアイクは逆三角形のがっしりとした体型だ。運転席は狭くはないが、彼が運転している姿はいかにも窮屈そうだ。
 やがて車のライトが警察車輌を照らし出した。前方の交差点で警察官が旗を振っている。
「むっ、検問か!?」
 やむを得ず減速すると、警官は右折を促しているだけだということがわかった。単なる交通整理である。
 後部座席には気絶した女を乗せているが縛ってはいない。女の隣に座っているのは相棒の賞金稼ぎだが少年のマークだ。おそらく警察に疑われることはあるまい。
 案の定、あっさりと右折した。しかし、曲がった直後――

 ――バン!

「何の音だっ!?」
「ホイさん、止まらないで。スピード上げてください」
 マークはごく落ち着いた声でアイクに告げた。
 言われたとおりスピードを上げつつ、アイクは聞いた。
「何だったんだ、さっきの音はっ?」
「おそらくライフルの発砲音です。軍人が発砲したんでしょう」
 事実だけを淡々と述べるマーク。すると、警官が通行止めをしていたその背には、既に軍隊が集結していたということか。
 破裂音を伴う発砲音となると、使ったのは金属製の弾丸を火薬で飛ばす昔ながらの銃ということになる。
 現代の銃は、相手を麻痺させたり、場合によっては生命活動を停止させるための光線を出す。そのかわり、対象物を破壊することはない。
 従って、軍隊や警察の特殊部隊において、対象物を破壊する必要のある作戦では今でも昔ながらの銃器が使われるのだ。

 ――タタタタタタタ!

 今度の音はアイクにもわかった。マシンガンだ。闇を切り裂くマズルフラッシュがルームミラーに反射しアイクの視界を幻惑する。
「始まりました。急いでください」
「……わーったよ」
 ――ちっ、得体の知れないガキだぜ。
 予め聞いていたとは言え、かなり近い位置でマシンガンの音を聞いた。その初めての体験にアイクは少なからず動悸が早まっているというのに、若いマークはいやに落ち着き払っている。
 アイクは、マークとはコンビを組んだばかりだ。異例中の異例だが、依頼人の指示により、今回の仕事限定でコンビを組んでいる。
 ――16歳だと聞いているが、こいつもしかして……
 随分昔に計画が頓挫したと聞いている技術のひとつにサイバネティック・オーガニズム――人体の一部もしくはほとんどを人工臓器や人工筋肉と交換してしまう技術――というものがある。マークはそのサイボーグであり、見かけ通りの年齢ではないのではないか。アイクは車を飛ばしながら、そんな有り得ない妄想に束の間浸っていた。

 ――グワアオオオ!

 車のエンジン音さえ圧倒し、化け物の咆吼がアイクの耳に届く。これまで聞いたことのあるどんな獣の声にも似ていない。
「出ましたね。僕も初めて見るけど、多分あれが《アースシェイカー》です」
 マークの声のトーンは全く変わらない。
「ちょっとは驚けよ――! なんだあの化け物!? 身長、下手すりゃ10メートル以上あるぞ!」
 彼らは依頼主から《アースシェイカー》のことを聞いてはいた。しかし、実際に間近で見ると、その圧倒的な存在感に対し若干の恐怖とともに興奮するアイクに対し、マークはまるで無関心に近い冷静さを保っていた。
 硝煙と土埃が風に吹き散らされ、軍のサーチライトに照らされた怪物の巨体が闇に浮かぶ。アイクは目測で大体の身長がわかったが、既に離れすぎていて細部まではわからない。ただ、ライトに照らされ陰影を際立たせる巨体からは、ごつごつとした岩のような印象を受けた。
 腹に響く魔物の咆吼に驚き、そこら中の民家からペットたちの鳴き声が響く。
 アイクは突然急ハンドルを切る。
「危ねえぞこらあっ!」
 自宅から飛び出してくる野次馬。警察車輌のサイレン。
 道路は瞬く間に喧噪に包まれた。
「くっ!」
 道を選んでなどいられない。通行人や警察車輌を避け、アイクは細い路地へと曲がっていった。
 直後、爆発音が轟いた。
「な、なんだ!?」
「軍の装甲車が1台やられたんだと思います」
 ――こいつ、やっぱりサイボーグだ。絶対だ!
 全く動じる素振りを見せない年若い相棒。アイクは、つい数分前の妄想が現実味を増していくように感じた。
 警察のサイレンに続き、拡声器で何ごとか叫ぶ声が微かに聞こえてくる。
「周辺の道路の封鎖を始めたようだな」
 思い通りに道を選ぶことができない。アイクたちが乗る車は、目的地とは反対方向へ向かっていく。
 マークはごく小さく舌打ちをした。この日、少年が初めて微かな感情の色を覗かせた仕草に、アイクが気付くことはなかった。野次馬を避けながら狭い路地を走っていたからだ。

 ――バラバラバラ!

 上空から大きな音が聞こえてきた。
「今度は何だっ!?」
 うんざりしたようにアイクが叫ぶ。
「ヘリコプターですよ。都市部で見るのは珍しいですが、今は反重力システムが使えませんからね」
 断続的に聞こえていた発砲音や爆発音は、もう聞こえてこない。怪物ごと戦闘区域が遠ざかっていったのか、怪物だけ逃げたのか。あるいは軍が怪物をたおしたのか。まあ、たおせるとは思えないのだが。
 突然、車が止まった。
「エンストだとぉ!? 燃料はたっぷりあるし、整備も完璧なのに……」
「くそぉ、あいつめ! まんまと誘導された!」
 感情剥き出しに怒鳴るマーク。
 アイクは驚いた顔をして後部座席を振り向いた。
「ほぉ。あんまり冷静なんでサイボーグかと思ってたところだぜ」
 思わず顔を赤らめて俯くマーク。アイクはその様子に笑顔を向けた。
「よろしくな、相棒」
 アイクの笑顔につられ、マークも笑顔を返す。
「でも、ホイさん」
「アイク、でいい」
「アイク。僕たち、依頼主のところに行けませんよ」
 告げるマークの声は再び冷静さを取り戻している。
「車ならすぐに直すぜ」
 その時、運転席のドアが開けられた。ロックしてあったにもかかわらず、外から開けられたのだ。
「無駄だ。何故ならあんたの車は壊れてはいない――、降りてもらおう」
 車の外から痩せた男がアイクに声をかけてきた。髪をオールバックに固めていて、薄い唇と切れ長の目が印象的な男だ。175センチ前後の身長はアイクとほぼ同じ。体格はアイクの方が圧倒的に良い。
 痩せた男が身に着けているのは高そうなスーツ――スジ者かも知れない。
 アイクは車からゆっくりと降りる――と見せかけ、革のベストの内側に隠したホルスターから銃を抜きざま麻痺光線を撃った。
 命中。
「!?」
 痩せた男は平然と立っている。
「無駄だ」
 噂の護身装備――軍用装備として極秘裏に実用化されたという――を身に付けてでもいるのだろうか。
 車から降り、身構えるアイク。しかしスーツの男は無造作に近付く。
 アイクのパンチが男の顔面に炸裂。
「ううっ」
 今回も命中したというのに、手首を押さえ、苦痛に呻くのはアイクの方だった。
 次の瞬間、スーツの男に首根っこを掴まれたアイクの身体は宙に浮いていた。

(6)に続く



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( 2008/06/14 00:01 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(0)

【日記】知らなかった 

小学館、揺れているようですね。
地方の中規模印刷会社で苦悩するWebデザイナー改めWebディレクターの日記:やっぱり漫画業界もそうなのか?(小学館少年サンデー訴訟問題)を拝読しました。

「金色のガッシュベル」と聞けば、読んだことのない私でさえ「ああ、少年サンデーの」とわかるほどの超メジャー作品だというのに。
ええと(^^;
編集者の友人が結構いるので、「編集がそんなに偉いのか」という論調には思わず言葉を濁してしまいますが(^^;
それにしても、あれだけ売れてる先生が原稿料の面だけでなく人としても軽んじられているというのは俄には信じられません……。
どうか、いい作品と、その作者への評価が低いままでなく、きちんと正常に評価される会社になってくださいますように。
お願いしますよ、小学館さん!


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( 2008/06/13 12:59 ) Category 日記/世迷い言 |