蒲公英 〜癒しと生命力の花〜

自作短編/長編小説を発表するブログです。たまに日本語のことを少しだけ考えてみたり、日記を書いたりします。

スレッジ・チェイサー (16) 

「敵は生きている! アルファ4! 格納庫内に《P》を突入させろ!」
 本作戦において陣頭指揮を執るのはアルファ4であり、ペイジ中佐は言わばオブザーバ的な立場である。ただし不測の事態が発生した場合、その内容によっては特例事項が適用され、ペイジ中佐の命令が優先される。
「了解! ベータ3、応答せよ。こちらアルファ4。《P》隊・D小隊起動。目標、《E》格納庫! これは特例事項である。繰り返す、これは特例事項である!」
 別のモニターが、D小隊――起きあがる6体の《パペット》を映した。モニターが映す範囲だけでも、D小隊の背後にはそれに倍する《パペット》が横たわっているのが見える。
「土壇場で邪魔をするか……。だが、好きにはさせんぞ」
 ペイジ中佐は落ち着きを取り戻し、自信たっぷりに言い放つ。何しろ、たった今起動した《パペット》はデモンストレーション用に戦闘機動に重点をおいた特別仕様なのだ。身体を構成する部品もゴミやガラクタの類ではなく、材料工学の専門チームが開発した特殊な金属やセラミックがふんだんに使われている。
 整列した《パペット》たちはジャンプを繰り返し、《アースシェイカー》の格納庫へと向かう。やがて、予備のカメラからの映像を受け取るモニターに《パペット》たちが集まってくる様子が映る。ようやくペイジ中佐の口元に歪んだ笑みが戻った。
 6体の《パペット》たちが格納庫の中へと入っていく。
 現在時刻15:00ちょうど。

 ――グワアオオオ!

 《アースシェイカー》の各関節に取り付けられたリモートユニットが、魔物の咆吼を思わせる大音響を轟かせる。その音は、分厚い装甲で防音されているはずの装甲車の中にまで届いた。
 再び大音響。
 今度は咆吼ではない。偽装した天蓋が崩れる音だ。
 《アースシェイカー》が天蓋を破壊して立ち上がったのだ。
 いや、正確には、土中から岩を割って地表に出現する巨人を演出するため、天蓋にはあらかじめ炸薬が仕掛けられていて、崩れやすくしてあったのである。
 いよいよ本番だ。ここからの約40分間で全てが決まる。
 しかし、なかなか歩き出そうとしない《アースシェイカー》。リモートユニットの故障を疑いだしたペイジ中佐は、アルファ4に調査の指示を出そうとしたが――
「ガンマ1より入電、ガンマ隊全滅! イオタ1を追跡してきた未確認部隊、座標0・0・0に接近中!」
 想定外だ。微かに眉をひそめるペイジ中佐の様子を見て、アルファ4は半ば報告のつもりで提案する。
「《P》隊・C小隊を投入します」
「いや。デルタ隊を投入しろ。未確認部隊と接触させた上で《E》で蹴散らす」
「……。り、了解」
 アルファ4が見せた一瞬の逡巡を、ペイジ中佐は鼻で笑って黙殺した。
「デルタ1。アルファ4だ。ガンマ隊が未確認部隊と交戦、全滅した。未確認部隊を殲滅せよ。これは特例事項である。繰り返す――」
 アルファ4はペイジ中佐から見えない位置で拳を握る。ペイジ中佐の指示とは言え、たった今自分は、行けば確実に命を落とす場所へ部下たちを送り込んだのだ。
 《アースシェイカー》の猛威による多くの犠牲。そこに現れた《パペット》による鮮やかな《アースシェイカー》退治。その演出効果は、さぞかし《パペット》の商品価値を高めることだろう。
「街も破壊する予定だったが、そちらは少し控え目にしても良さそうだな。街をあまり酷く破壊すると、後で陸軍の無能を叩かれかねん」
 ペイジ中佐にとって、自分が管轄する陸軍兵士の犠牲は格好の人身御供というわけだ。
 しかも、早耳の諜報組織を擁する諸外国のうち何か国かは、すでに《パペット》開発完了の情報を入手しており、非公式に購入を打診してきている。今回の演出が上手くいけば、こちらの言い値で売り捌くのも夢じゃない。
 《アースシェイカー》が格納庫の外へ1歩を踏み出した。どうやらリモートユニットの件は杞憂だったようだ。
「ふん。これより後は、特例事項の必要なくスムーズに作戦が進行することを願いたいものだな」
 ペイジ中佐がつぶやいた途端、装甲車の無線が緊急入電を告げる。アルファ4が応答した。
「アルファ6。アルファ4だ。特例事項だと!? ふざけるな、アルファ1はここにおられる! ――まだ言うか! 作戦中だ、軍法会議ものだぞっ!」
 アルファ4は必要以上にぴりぴりしている。ペイジ中佐は口元を歪めて笑いつつ、アルファ4の肩に手を置いた。
「代われ」
「は? はっ!」
 アルファ4は戸惑いつつ、通信機をペイジ中佐に近づけた。
「アルファ6。アルファ1だ。――ふむ、ご苦労。連れてこい。以上だ」
 モニター群を振り向いたペイジ中佐は、アイクの車に搭載されたカメラの映像を確認する。そこにはカメラに向かって敬礼する下士官が映っている。彼がアルファ6だ。
 通信を切ったペイジ中佐に棘のある視線を向け、アルファ4は努めて冷静に訊ねる。
「申し上げにくいのですが、今は作戦中です。指示・命令系統を滞らせないためにも、もし本件の他に併行して進行中の極秘任務があれば、差し支えなければ伺っておきたいのですが」
「すまんな、アルファ4。本件は想定外の突発事項だ。向こうが勝手に尻尾を出してくれたお陰で、思わぬネズミ取りに成功したのだよ」
 機嫌良く答えるペイジ中佐には、部下に詫びる気持ちなど微塵もなかった。

*      *      *


 スービィがスレッジたちに手渡した防御フィールド発生装置と同じ物を、ユキたちも装備している。実は、それはユキが本来所属している部隊にのみ制式採用されている装備なのだ。車載タイプは連続運用時間60分を誇る。これを、いかなるコネクションによってスービィが手に入れたのかは謎である。
 中央情報局――陸海空軍の情報部を統括する国家機関。ユキの本当の肩書は、中央情報局特務小隊に所属する中尉である。
 ハイスクール卒業と同時に特務小隊に入隊した彼女は、士官学校に在籍する傍ら数多の任務をこなしてきた。士官学校卒業と同時に陸軍情報部に入隊したのは偽装であり、以前から武器商人たるクリント重工との間で黒い噂の絶えないペイジ中佐を探るため、ユキに課せられた任務だったのである。
 ペイジ孤児院の運営という社会福祉事業を行い、政財界の要人たちにも多くのコネクションを持つペイジ中佐は、陸軍の階級とは別に社会的な立場を確立しており、中央情報局と言えどもおいそれと手を出せずにいたのだ。

 スービィに連絡を入れていたユキは、爆発音を耳にした。
 思わずそちらを見やると、シグマことスレッジのエアバイクが爆発しているのが視界に入った。
「アルファ2! シグマが――、シグマが爆発した!」
 だが、彼女らはそちらに構ってはいられなかった。敵戦力と遭遇したのだ。
 ユキが指示を飛ばす。
「ロケット弾、および対戦車バルカンの使用を許可する。こんな足場の悪い場所で戦闘が膠着状態に陥ったら巨人の餌食だっ!」
 アイクたちは、こちらから視認できる場所で立ち往生している。タイヤが地面の穴にはまったようだ。

 ――グワアオオオ!

 《アースシェイカー》の巨体が岩の天蓋を割って姿を現す。
 2本の腕と2本足を備えたその姿は、人の姿を模した巨大ロボットのように思えなくもない。しかし岩のようにゴツゴツとした身体の表面はロボットと言うよりは伝説の魔獣や怪獣を思わせる禍々しさだ。関節を伸ばし地面に垂直に直立した巨人の背丈は、目測で17メートルはありそうだった。
 こちらへ1歩を踏み出す巨人。スービィからの情報により、ユキは巨人が遠隔操作で操られていることを知っている。そうである以上、巨人の目的は明白だ。
 早々に戦闘を切り上げ、敵の懐へ――ペイジ中佐が陣取る座標0・0・0を目指さねばならない。
 防御力で勝る特殊部隊が、ロケット弾と対戦車バルカンでの攻撃を開始した。その強烈な火力にさらされ、陸軍側の迎撃部隊は5分と保たず全滅した。
「アルファ5! 座標0・0・0を目指せ。私はオメガたちをピックアップする。私を待つ必要はない」
「了解。アルファ3、ご無事で!」
 ユキは個人用防御フィールドを制服の内側に装備すると、車を降りてアイクたちが立ち往生ちしている場所へと走っていった。

(17)に続く



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( 2008/07/03 23:02 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(4)

スレッジ・チェイサー (15) 

 待つ以外にすることがない。
 なぜ奴なのだろうか。一体、奴のどこが他の奴と――俺と違うのだろうか。
「運命……か」
 柄にもない言葉を吐き、苦笑する。
「全部教えておいてやっても良かったんだが、そうすると奴のことだ。意識しすぎて、肝心なところで失敗するかも知れん」
 それがスレッジの性格に対するスービィの評価である。

 作戦開始時刻の直前、無線機が着信を告げた。
 定時報告ではない。スービィは素早く応答する。
「アルファ2。アルファ3だ。オメガがイオタ1の車に便乗。走り去るぞ、どういうことだ?」
 ユキからだ。噛みつくような勢いの、鋭い声である。
 陸軍情報部のそれより高度な暗号化無線を使ってはいるが、万一の傍受に備え、個人名で呼び合うわけにはいかない。従って、殆どの固有名詞を情報部と同じコードネームに置き換えている。
「アルファ3。アルファ2だ。どうやら最初からアルファ1は“荷物”だけじゃなく、オメガごと持っていくつもりだったようだな」
 スービィは、それさえ想定内だと言わんばかりに冷静に応答する。
「アルファ2へ。奴ら、ポイント0・0・0に向かってる。このままではピックアップが困難だ」
「アルファ3へ。オメガにはそれなりの“荷物”を持たせてある。もともと、オメガたちのピックアップはオプションに過ぎん。本来の任務を優先しろ」
 ユキは、カナをなんとかして助けたかった。任務抜きで会い、話をしてみたかった。
 軍隊への入隊を目指してきた自分とは180度違う人生を送ってきたのであろう、歳の近い女性。一般人にしては油断のない注意力を持っているように見受けられるが、物腰の端々にどこか柔らかく相手を包み込むような優しさが透けて見える。ユキは今朝会ったばかりのカナに対して、そんな印象を持っていた。
 ――任務に私情は禁物……か。
 自分が助けなくても、あの賞金稼ぎがカナを助ける手筈となっている。
 ユキは初めて感じた任務中の逡巡をなんとかねじ伏せた。軍人としての自覚。口の中に嫌な苦味が広がる。
「アルファ2へ。了解だ」
 14時59分。
 無線機が雑音を立て、スービィはスイッチを切ろうとした手を止めた。
 次いで、無線機は兵士同士が叫び合う声を拾う。
「アルファ2! シグマが――、シグマが爆発した!」

*      *      *


 スレッジが円筒形のユニットのレバーを引いた途端――
 閃光と轟音も束の間、世界が暗転した。
 地に足がついていない。頼りない浮遊感に不安を募らせる。
 暗闇と無音の世界だ。視力と聴力を失ったのか。
 いや、それより――
「俺は死んだのか?」
 早鐘を打つ鼓動を自覚する。
 息苦しさと発汗の生々しさに己の“生”を確認したとき、何者かが呼びかけてきた。
(我が呼び声に応えよ。“乗りこなす者”よ、礎を築き給え)
 それは耳に届く声ではない。頭の中に直接響いてくる。
「誰だ。俺は“乗りこなす者”なんかじゃない。スレッジだ」
 自分の声が鼓膜に響く。聴力は回復しているようだ。
(汝はフィールドを自在に操ることのできる、選ばれし人間。それ即ち“乗りこなす者”――)
 言葉にすると、そんなニュアンスだ。何のことだかよくわからない。
 だが、スレッジは確実に感じていた。穏やかで友好的な、温かみのある意識を。それは個人のようでもあり、集団のようでもある。姿の見えぬその存在が、自分に何かを伝えようとしている。
 スレッジは頭で考えるのをやめ、直感や感情といった感覚的な部分に身を委ねた。
「俺に何をさせたいんだ?」
(汝の世界のコトバを完全には理解できない。イメージを映像にして伝える。受け取ってくれ)
 宇宙服。技術の進歩。宇宙空間を移動する大船団――遙かな未来のイメージだ。
 札束。武器。椅子。密談――現在のイメージ。
「大体わかった。俺が《アースシェイカー》を止めてやる」
 頭に響く声が聞こえなくなり、世界がもとの岩場へと戻っていく。視力が回復した。虹のような七色の光が、自分の周りで輝いている。
「! ミリィはどこだ! ミリィ!」
「ああよかった! 僕ここだよ、無事だったんだね、スレッジも!」
 ほぼ正面にいた。だぶだぶのTシャツとジーンズ、逆さにかぶった野球帽からはみ出す赤毛。
 スレッジがほっと胸をなで下ろしていると、ミリィが正面から抱きついてきた。
「ん? 体温を感じない……」
「僕ら、身体にフィールドを纏ってるんだ」
 ――スービィの野郎。
 初めから、誰が“乗りこなす者”かを知っていたとしか思えない。それならそれで、知っていることを全部伝えておいてくれれば良かったものを。
「ミリィ。俺は、誰を信じれば良い?」
 ミリィはほんの一瞬だけ困ったように視線を泳がせたが、真っ直ぐにスレッジの目を見上げてきた。
「スレッジが信じたい人を」
「よし、仕事だ、ミリィ!」
 スレッジの視界に怪我をして気絶している兵士が見える。
「うん!」
 嬉しそうにうなずくミリィ。彼女が軽く指を振ると、監視カメラがひとつ破裂した。周囲で輝いていた光が消える。
「なるほど。フィールドにはそんな使い方もあるのか」
 スレッジは兵士を抱えると、なるべく格納庫の入口から離れた場所に横たえた。
「なんだこれ。まるで重さを感じないぜ」
「スレッジ急いで! 《アースシェイカー》が起動しちゃうよ!」
「おう!」
 スレッジとミリィは格納庫へと飛び込んだ。

*      *      *


 作戦開始1分前だ。この作戦において、ペイジ中佐が直接指示を出す必要はない。
 装甲車の中でモニターを眺めていたペイジ中佐は口元だけを歪めて笑う。
「何をしたかったのか知らんが、バイク1台で突っ込んでくるとは愚かな」
 モニターには、爆発炎上するバイクが映っている。
 しかし。
 10秒経過。15秒経過――
「? 妙だ。なぜ輝きが消えん。燃えているわけではないのか?」
 運転席の“アルファ4”がペイジ中佐の指示を仰いだ。
「不確定要素が取り除かれるまで、作戦を延期しますか?」
「何を言う。変更はしない。予定通りだ!」
「はっ!」
 助手席の兵士が端末を操作し、アルファ4が通信機で呼びかける。
「ベータ1へ。アルファ4だ。《E》起動、30秒前! 総員、ポイント0・2・2へ退避!」
「アルファ4。ベータ1です。了解!」
 モニターに、天蓋を岩場に偽装した格納庫から離れていく兵士たちが映る。
 バイクの破片が散らばる爆発地点では、いまだに輝きがおさまらない。ペイジ中佐は訝しむ視線をモニターに突き刺した。
 そばには倒れて気絶している兵士が1人。先ほどのバイク爆発に巻き込まれたのだろう。他の兵士たちは怪我人を連れて退避するのを断念し、訓練同様に駆け足で退避していく。
 その様子を映した直後、ペイジ中佐が注視していたモニターが突然沈黙――砂の嵐状態となった。
「何だ?」
「予備のカメラに切り替えます」
 助手席の兵士がペイジ中佐のつぶやきに答え、迅速に沈黙したモニターを回復させる。
 バイクの破片が散乱している地点に、先ほどまでの輝きは確認できない。
 それよりも、倒れていた兵士がいない――、いや、いた。モニターの隅にぎりぎり映る場所まで退避している。相変わらず気絶している。この短時間で自力で這って移動できる距離ではない。
 ぎり、という音が聞こえた。ペイジ中佐が奥歯を噛みしめたのだ。
「敵は生きている! アルファ4! 格納庫内に《P》を突入させろ!」

(16)に続く



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( 2008/07/03 00:00 ) Category スレッジ・チェイサー | TB(0) | CM(2)
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