それからぼくらは夕陽が沈むまで遊んでいた。
ザニガニを釣って、カエルを捕まえて、フナを釣って、ザニガニ同士戦わせて遊んだりした。
時には、木に登ったり、どんぐりを拾ってパチンコにしたり。
ぼくらの背丈ほどまでのびたアシの原っぱで、たくさんのアシを寄せ集めて上の方を縛り、中のアシをむしるとちょうどテントみたいになるので、それを秘密基地にして宝物をそこに隠したりした。
いつも、遊び方はトム・ソーヤーが提案してくれるので、ぼくらはいつもそれに従ってるだけでよかった。
常に誇り高く。喧嘩が強いけど優しくて、勉強はできないけど何でも知っている。
だから別段、人なつっこいわけじゃないのに、トムのまわりは友達でいっぱいだった。
トムの信念は、「来るものは拒まず、去るものは追わず」だった。
遊べるやつはついて来い。習い事や用事があるんなら、無理して付き合わなくていい。
そんな感じだった。
トム・ソーヤーはいつでもぼくらのリーダーであり、ヒーローだった・・・。
* * *
でも、トム・ソーヤーにもたった一人だけ、嫌いな奴がいる。
そんな噂が、いつに間にかクラス中に広まっていた。
今年の春から東京から大阪に引っ越してきたヒロシくん。
ヒロシくんのお父さんは公務員で、とてもお金持ちだった。
やせっぽちで、臆病で、引っ込み思案な子だった。
せっかちでおしゃべりな子供が多い大阪という土地で、ヒロシくんは明らかに浮いていた。
休憩時間も外へは遊びに行かず、ずっと教室で本を読んでいた。
トムは弱いものいじめが大嫌いなので、直接何かちょっかいを出すと言う事はなかった。
でも、トムが距離を置いているので、なんとなく話し掛けづらいのは確かだった。それに、トムと遊んでいる方が、ぼくらにとっては面白かったから。
だからヒロシくんはしばらく誰とも友達になれないでいた。
先生が、「ヒロシくんはこの学校にまだ慣れていないので、みんな、仲良くしたってな」と言った。
ヒロシくんは真面目だし、勉強もよくできるので、先生の“ウケ”は良かった。
そのことがぼくらは気が気でしょうがなかった。トムにとって先生とはいつも怒っている大人、というイメージなのだ。
きっとトムにとって苦手なタイプに違いなかった。
ヒロシくんもトムの事が苦手らしく、あまり話をすることはなかった。
* * *
7月の暑い日の事だった。1学期の終業式も終わって、明日からぼくらの待ちに待った夏休みがやってきた。
通信簿など気にすることもなく、ぼくらは夏休みになってからの遊びの計画に余念がなかった。
トムは「お前ら、好きにせえや。どこでも付き合ったるさかい」と、口には出さないけどぼくらの計画を聞いていた。
と、その時。
トムを囲んで離していたぼくらの所に、同じクラスのタカユキが駆け寄ってきた。
「なあ、おいっ!今、聞いてんけどやぁ」
タカユキは目を輝かせながら言った。
「ヒロシの奴、ファミコン買いよってんて!」
と、すごいはしゃぎようだった。
タカユキは普段、空手や公文式などの習い事で忙しいため、あまり放課後に一緒に遊ぶ機会は少なかったが、その代わり誰とでも仲良くして『浅く、広い』友達関係を築いている奴だった。当然、トムともヒロシくんともそこそこ仲が良い。特にヒロシくんとは家も近い事もあって、男子の中で一番よく話をしていた。
「ファミコンって何じゃい?」
珍しく、トムが一番最初に話に興味を持った。
「テレビゲームや。今までみたいに1台で1つのゲームしか遊べないんやなくって、カセットさえ入れ替えれば1台でいろんなゲームが遊べるんねん!」
「あれ、めちゃくちゃ高いんやろう?」
「すげえ・・・うちのクラスでそんなん持ってんの、ヒロシだけちゃうかぁ・・・?」
ゲームといえば、ゲームウォッチとゲーム喫茶のインベーダーくらいしか知らなかったぼくらにとってそれはまさに最高級品のおもちゃだった。
「それ、なんぼくらいしよんねん?」
トムが聞いた。
「1台、1万4,800円やったと思う。でも、それだけやったら遊べなくて、1本4千円くらいのカセット買わなあかん・・・」
「たっかぁ〜!!!2万円もするやん。うち、買うてもらわれへんわ〜」
「やっぱ、あいつんち、金持ちやからなぁ・・・」
「なんか、めっちゃ面白いんやろう?あれって・・・」
ざわざわざわ・・・
ぼくらは噂に聞くファミコンの話題で持ちきりになった。
「ふん・・・」
トムだけは一人、冷静だった。
「外でイナゴ捕まえとった方がなんぼか面白い」
そっと呟いたトムの声も、たぶん聞こえていたのはぼくだけだっただろう。
それぐらい、みんな好き勝手にファミコンについてしゃべっていた。
(3)に続く
まさに「ジャパニーズ・トムソーヤ」ですね。
子供の遊びの変遷から見えてくる心模様。
小説って、その人の人生が垣間見えて、
なかなか興味深いですね。
うーん、ノスタルジー♪