「敵は生きている! アルファ4! 格納庫内に《P》を突入させろ!」
本作戦において陣頭指揮を執るのはアルファ4であり、ペイジ中佐は言わばオブザーバ的な立場である。ただし不測の事態が発生した場合、その内容によっては特例事項が適用され、ペイジ中佐の命令が優先される。
「了解! ベータ3、応答せよ。こちらアルファ4。《P》隊・D小隊起動。目標、《E》格納庫! これは特例事項である。繰り返す、これは特例事項である!」
別のモニターが、D小隊――起きあがる6体の《パペット》を映した。モニターが映す範囲だけでも、D小隊の背後にはそれに倍する《パペット》が横たわっているのが見える。
「土壇場で邪魔をするか……。だが、好きにはさせんぞ」
ペイジ中佐は落ち着きを取り戻し、自信たっぷりに言い放つ。何しろ、たった今起動した《パペット》はデモンストレーション用に戦闘機動に重点をおいた特別仕様なのだ。身体を構成する部品もゴミやガラクタの類ではなく、材料工学の専門チームが開発した特殊な金属やセラミックがふんだんに使われている。
整列した《パペット》たちはジャンプを繰り返し、《アースシェイカー》の格納庫へと向かう。やがて、予備のカメラからの映像を受け取るモニターに《パペット》たちが集まってくる様子が映る。ようやくペイジ中佐の口元に歪んだ笑みが戻った。
6体の《パペット》たちが格納庫の中へと入っていく。
現在時刻15:00ちょうど。
――グワアオオオ!
《アースシェイカー》の各関節に取り付けられたリモートユニットが、魔物の咆吼を思わせる大音響を轟かせる。その音は、分厚い装甲で防音されているはずの装甲車の中にまで届いた。
再び大音響。
今度は咆吼ではない。偽装した天蓋が崩れる音だ。
《アースシェイカー》が天蓋を破壊して立ち上がったのだ。
いや、正確には、土中から岩を割って地表に出現する巨人を演出するため、天蓋にはあらかじめ炸薬が仕掛けられていて、崩れやすくしてあったのである。
いよいよ本番だ。ここからの約40分間で全てが決まる。
しかし、なかなか歩き出そうとしない《アースシェイカー》。リモートユニットの故障を疑いだしたペイジ中佐は、アルファ4に調査の指示を出そうとしたが――
「ガンマ1より入電、ガンマ隊全滅! イオタ1を追跡してきた未確認部隊、座標0・0・0に接近中!」
想定外だ。微かに眉をひそめるペイジ中佐の様子を見て、アルファ4は半ば報告のつもりで提案する。
「《P》隊・C小隊を投入します」
「いや。デルタ隊を投入しろ。未確認部隊と接触させた上で《E》で蹴散らす」
「……。り、了解」
アルファ4が見せた一瞬の逡巡を、ペイジ中佐は鼻で笑って黙殺した。
「デルタ1。アルファ4だ。ガンマ隊が未確認部隊と交戦、全滅した。未確認部隊を殲滅せよ。これは特例事項である。繰り返す――」
アルファ4はペイジ中佐から見えない位置で拳を握る。ペイジ中佐の指示とは言え、たった今自分は、行けば確実に命を落とす場所へ部下たちを送り込んだのだ。
《アースシェイカー》の猛威による多くの犠牲。そこに現れた《パペット》による鮮やかな《アースシェイカー》退治。その演出効果は、さぞかし《パペット》の商品価値を高めることだろう。
「街も破壊する予定だったが、そちらは少し控え目にしても良さそうだな。街をあまり酷く破壊すると、後で陸軍の無能を叩かれかねん」
ペイジ中佐にとって、自分が管轄する陸軍兵士の犠牲は格好の人身御供というわけだ。
しかも、早耳の諜報組織を擁する諸外国のうち何か国かは、すでに《パペット》開発完了の情報を入手しており、非公式に購入を打診してきている。今回の演出が上手くいけば、こちらの言い値で売り捌くのも夢じゃない。
《アースシェイカー》が格納庫の外へ1歩を踏み出した。どうやらリモートユニットの件は杞憂だったようだ。
「ふん。これより後は、特例事項の必要なくスムーズに作戦が進行することを願いたいものだな」
ペイジ中佐がつぶやいた途端、装甲車の無線が緊急入電を告げる。アルファ4が応答した。
「アルファ6。アルファ4だ。特例事項だと!? ふざけるな、アルファ1はここにおられる! ――まだ言うか! 作戦中だ、軍法会議ものだぞっ!」
アルファ4は必要以上にぴりぴりしている。ペイジ中佐は口元を歪めて笑いつつ、アルファ4の肩に手を置いた。
「代われ」
「は? はっ!」
アルファ4は戸惑いつつ、通信機をペイジ中佐に近づけた。
「アルファ6。アルファ1だ。――ふむ、ご苦労。連れてこい。以上だ」
モニター群を振り向いたペイジ中佐は、アイクの車に搭載されたカメラの映像を確認する。そこにはカメラに向かって敬礼する下士官が映っている。彼がアルファ6だ。
通信を切ったペイジ中佐に棘のある視線を向け、アルファ4は努めて冷静に訊ねる。
「申し上げにくいのですが、今は作戦中です。指示・命令系統を滞らせないためにも、もし本件の他に併行して進行中の極秘任務があれば、差し支えなければ伺っておきたいのですが」
「すまんな、アルファ4。本件は想定外の突発事項だ。向こうが勝手に尻尾を出してくれたお陰で、思わぬネズミ取りに成功したのだよ」
機嫌良く答えるペイジ中佐には、部下に詫びる気持ちなど微塵もなかった。
* * *
スービィがスレッジたちに手渡した防御フィールド発生装置と同じ物を、ユキたちも装備している。実は、それはユキが本来所属している部隊にのみ制式採用されている装備なのだ。車載タイプは連続運用時間60分を誇る。これを、いかなるコネクションによってスービィが手に入れたのかは謎である。
中央情報局――陸海空軍の情報部を統括する国家機関。ユキの本当の肩書は、中央情報局特務小隊に所属する中尉である。
ハイスクール卒業と同時に特務小隊に入隊した彼女は、士官学校に在籍する傍ら数多の任務をこなしてきた。士官学校卒業と同時に陸軍情報部に入隊したのは偽装であり、以前から武器商人たるクリント重工との間で黒い噂の絶えないペイジ中佐を探るため、ユキに課せられた任務だったのである。
ペイジ孤児院の運営という社会福祉事業を行い、政財界の要人たちにも多くのコネクションを持つペイジ中佐は、陸軍の階級とは別に社会的な立場を確立しており、中央情報局と言えどもおいそれと手を出せずにいたのだ。
スービィに連絡を入れていたユキは、爆発音を耳にした。
思わずそちらを見やると、シグマことスレッジのエアバイクが爆発しているのが視界に入った。
「アルファ2! シグマが――、シグマが爆発した!」
だが、彼女らはそちらに構ってはいられなかった。敵戦力と遭遇したのだ。
ユキが指示を飛ばす。
「ロケット弾、および対戦車バルカンの使用を許可する。こんな足場の悪い場所で戦闘が膠着状態に陥ったら巨人の餌食だっ!」
アイクたちは、こちらから視認できる場所で立ち往生している。タイヤが地面の穴にはまったようだ。
――グワアオオオ!
《アースシェイカー》の巨体が岩の天蓋を割って姿を現す。
2本の腕と2本足を備えたその姿は、人の姿を模した巨大ロボットのように思えなくもない。しかし岩のようにゴツゴツとした身体の表面はロボットと言うよりは伝説の魔獣や怪獣を思わせる禍々しさだ。関節を伸ばし地面に垂直に直立した巨人の背丈は、目測で17メートルはありそうだった。
こちらへ1歩を踏み出す巨人。スービィからの情報により、ユキは巨人が遠隔操作で操られていることを知っている。そうである以上、巨人の目的は明白だ。
早々に戦闘を切り上げ、敵の懐へ――ペイジ中佐が陣取る座標0・0・0を目指さねばならない。
防御力で勝る特殊部隊が、ロケット弾と対戦車バルカンでの攻撃を開始した。その強烈な火力にさらされ、陸軍側の迎撃部隊は5分と保たず全滅した。
「アルファ5! 座標0・0・0を目指せ。私はオメガたちをピックアップする。私を待つ必要はない」
「了解。アルファ3、ご無事で!」
ユキは個人用防御フィールドを制服の内側に装備すると、車を降りてアイクたちが立ち往生ちしている場所へと走っていった。
(17)に続く
ユキの活躍に期待しつつ、スレッジたちの動向も楽しみです♪