アイクの車のタイヤはオンロード用だ。
地面には大きな穴が穿たれている。先ほど、陸軍の部隊がスレッジたちに投げつけた手榴弾のせいだ。その穴にタイヤがはまり、スタックしてしまったのだ。
「くそ、動かん!」
アイクが毒づくのと、スレッジのバイクが爆発するのが同時だった。
轟音とともに車の左手に巨大な光芒が広がる。ゲイリーは窓に張り付いた。
「スレッジ!」
――あいつ、ちゃんとレバーを引いただろうか。
思わず叫ぶゲイリーを、カナは少し驚いた顔で見つめる。
「知り合いなの、ブース?」
炎上するバイクから目を離さないゲイリーは、七色に光る輝きを確認すると、ようやく安心したようにカナを振り向いた。
「ああ、今日知り合いになったばかりだがな……」
「話に割り込んで悪いが、後ろでドンパチが始まってる。車を捨てて逃げるぞ!」
アイクに頷いて、ゲイリーとカナは車外に出た。
続いて降りてきたマークは、何を思ったかそのまま爆発したバイク目がけて走っていく。
「マーク! どこ行くんだっ!?」
「アイク! あなたはノイルさんたちを座標0・0・0の北側へっ! 《アースシェイカー》は北へは行かない! 僕には僕の仕事があるっ!」
一旦足を止め、振り向いたマークが言い終えた直後、《アースシェイカー》が立ち上がった。
――グワアオオオ!
「な――!!」
《アースシェイカー》については誰からも一言も聞かされていなかったカナだけが絶句し、立ちつくしている。
「逃げるぞ、カナ!」
ゲイリーに手を引かれ、カナは北へと走り出した。
それを横目に見つつ、アイクはマークを追うべきかどうか迷った。
「マークが何をする気か知らんが、俺がいても足手まとい……だな。それに俺は依頼主のとこにブースを連れて行かなきゃならん……」
ゲイリーたちを追って走ろうとしたアイクは、後頭部に硬い物を押し付けられて硬直した。この感触は銃だ。
「両手を頭の後ろで組んでもらおうか」
女の声だ。
アイクは言われたとおりにするふりをして――、突如身体を反転させた。
女は慌ててアイクの動きに対応しようとする。
アイクは銃を持つ敵の腕の細さにほくそ笑み、銃を叩き落とすべくその手首に手刀を叩き込む。
しかしアイクの反撃は、そこで途切れた。
手首を押さえてうずくまってしまったのだ。
「ぐお、なんだこの痺れは……。昨夜の奴と同じ……」
「残念だったな。個人用防御フィールドを殴ったのさ、貴様は」
女――ユキが携行している個人用フィールドと同じ物を、昨夜はスービィが使っていたのである。
うずくまったアイクの首筋を、ユキは容赦なく蹴り上げた。
声も出せず気絶したアイク。
「おとなしくそこで寝ていれば《アースシェイカー》のオペレータからは貴様の姿は見えまい。貴様がよほど運が悪い奴でない限り……、生き残れるさ」
カナを追うべく走り出そうとしたユキだったが、彼女はその場に凍りついた。
何者かが彼女のこめかみに銃を押し付けたのだ。
個人用フィールドの持続時間はごく短い。すでに効果は切れている。
「残念ですが少尉、そこまでです」
その声を聞き、ユキは唇をきつく噛んだ。
「きさ……ま」
切れた唇から出血し、顎に赤い筋を引いた。
「申し訳ありませんが任務ですので」
兵士はユキを後ろ手に回させると、彼女の両手首に手錠をかけた。
「座標0・0・0までご同行願います」
兵士は無線機を操作した。
「アルファ4。アルファ6です。特例事項が発生しました」
兵士のコードはアルファ6。アイクの車載カメラに向かって敬礼している横顔は、陸軍情報部におけるユキの部下、マーチン・デービス上等兵だった。
* * *
いきなり天蓋が崩れるとは予想外だ。スレッジとミリィは瓦礫の下敷きとなってしまった。
身に纏うフィールドのお陰で、身体能力は飛躍的にアップしている。現にふたりとも外傷は全く無いし、痛みを感じる部位もない。
しかし、フィールドの力をどう使ってみても、瓦礫がびくともしないのだ。これでは格納庫から脱出できない。
「ミリィ! お前は動けるか?」
「スレッジも動けないの? 僕もダメ」
不気味なことに、スレッジとミリィの居る場所以外からもごそごそ音がしている。
そんなことより、《アースシェイカー》が立ち上がっているのが瓦礫の隙間から見える。
「くっそ。あいつを止めに来たってのに――」
焦りは身に纏うフィールドに乱れを生み、のしかかる瓦礫の重みが増す。
「レースと同じか。焦ったら負けだな」
スレッジは目を閉じ、集中した。
閉じた目をゆっくりと開けながら、ミリィに告げる。
「いるぜ。俺たちを止めている奴が」
スレッジは見た。崩れてしまった格納庫の外に立ち、《アースシェイカー》には目もくれずこちらを睨み付けている人物を。
「さっきまで気付かなかった。瓦礫の隙間から外が見えるじゃないか」
「僕には見えないよ。多分、スレッジはフィールドのエネルギーで透視しているんだ」
――んなバカな。
そう言おうと、ミリィの声の方を振り向いたスレッジは息を呑んだ。
瓦礫に囲まれ、スレッジと同じように俯伏せているミリィが見えるのだ。集中する前まではふたりの間には確かに瓦礫があった。いや、今もある。
ミリィが聞いてきた。
「ねえ、外にいるのはどんな人?」
スレッジは再び集中した。すると、見えていた瓦礫の外の景色や、隣で俯伏せているはずのミリィが見えなくなり、スレッジの視界は瓦礫で埋め尽くされる。
スレッジは頭の中に瓦礫を取り除くイメージを思い浮かべながらミリィに答えた。
「ミリィと同じくらいの年格好。男だ。赤毛で――」
「弟だ。多分マークだよ」
「似てねえな。外にいる奴、随分目付き悪かったぞ」
「うはは。スレッジ、人のこと言えないよっ」
――よし、いける。
「ミリィ、出られそうだぞ」
スレッジが俯せている場所を中心に、虹色に輝く球体が出現した。
最初は等身大の球体だったが、やがて《アースシェイカー》に匹敵する大きさまで膨れ上がった。
「おおおお!!」
――バリバリバリ!
閃光とともに、落雷のそれにも似た轟音が響き渡る。
さしもの《アースシェイカー》がぐらつき片膝をつくと同時に、一帯は土埃と瓦礫の粉塵が立ち籠め視界が利かなくなった。
(18)に続く