――みんな、無事でいろ!
「デジル?」
目を開けた。
「あ? やば! 第三陣だ!」
最後の1体となった《パペット》が、空中でスレッジを支えてくれていた。
「とうとう俺とお前だけか。っしゃ! 1発でも多く! 行くぜ」
その時、はるか上空で3発のミサイルが爆発した。
「あの光……。荷電粒子砲か! やってくれるぜ、デジル」
《パペット》が巨大な虹色の光球を発生させた。
「すげ。特別製か、お前は」
そうではなかった。地上で爆発したジェネレーターから漏れ出た反重力フィールドが、急速にネオ・ジップ北部一帯の反重力システムを回復させつつあった。
それに伴うフィールドの乱れが、一時的に《パペット》の性能を増大させたのだ。
《パペット》は、2発のミサイルを同時に受け止めた。
「よーし、俺も! うおおお!!」
スレッジも巨大な光球を発生させる。2発同時に受け止めた。
さすがに1発だけの時とは違う。スレッジの光球の外側に、爆発のエネルギーが少し漏れた。
そこに、もう1発落ちてきた。
「なろぉ! 3発くらい、まとめて面倒見てやるぜっ!!」
予想を上回る閃光と轟音の中、再びスレッジの気が遠くなる。
スレッジは、破片も残さず爆発炎上した《パペット》に、霞む視線を走らせた。
「ありがとな《パペット》。残り2発……。くそ……」
気絶するものか。その思いもむなしく、スレッジの身体は落下を始める。しかし今度こそ、彼を支える《パペット》は1体もいない。
アルファ5は上空を見上げて歯がみした。
「我々は、ただ見ているしかできないのかっ! 彼ひとりに全て任せて!」
その時、目の前の《アースシェイカー》が膝をつき、倒れ込んだ。
「少尉! アルファ5! 反重力システムが回復しています!」
先ほど防御フィールドを投擲した兵士がアルファ5に報告した。
「! 彼を救うぞ!」
アルファ5は自分の車の反重力システムを起動し、スレッジめがけて上空へ飛び上がった。
「いいか。彼の真下でホバリングし、上下反転する。反重力フィールドを彼に照射し、受け止めるぞ」
「しかし、下手をすると我々も彼も地上に激突します」
「他に方法はない!」
言われた通りに操縦する兵士の視界に、地上に落ちるミサイルが見えた。
1発は《アースシェイカー》が格納されていた場所に、もう1発は座標0・0・0に。非常に近い場所だ。
「……?」
1発分の爆発でしかないように感じたのは気のせいか。
「照射!」
アルファ5が号令した。
兵士がスイッチを押すと、車の屋根は見る間に地表に吸い込まれそうな勢いで落ちていく。
「だ、だめか」
地上への激突を覚悟した。しかし。
「……?」
車は空中に静止している。
「助かったぜ」
窓から覗き込むスレッジと目が合って、アルファ5は思わず敬礼した。
「いえ。自分たちこそ、助けに来たつもりが逆に助けていただきました」
事実、地上めがけてわざと加速したような格好となってしまった車を、フィールドの力で静止させたのはスレッジなのだ。
「あんたらが反重力フィールドを浴びせてくれなかったら、俺は気絶したままだったぜ」
そう言ってスレッジは、今ミサイルが落ちた場所を振り向く。
「うわ!」
その視線を遮るように、恰幅の良い中年が空を泳いでくる。
「ど、どけっ! こっちは急に曲がれないんだっ!」
「ペイジ!」
再び上下反転し、車の床を地上に向けたアルファ5は、拳銃でペイジ中佐の反重力グライダーを狙撃した。
「ばか、やめっ! そこはフィールドの外に剥き出しなんだぞ!」
慌てる中佐を無視して発砲。
2発、3発。
アルファ5の銃弾がペイジ中佐のグライダーに命中した。
「おちるー!」
ペイジ中佐の醜態を見てにやりと笑ったスレッジは、両手で作ったフィールドの塊をペイジ中佐に投げつけた。
ペイジ中佐の身体が静止するのを見て、アルファ5が言った。
「優しいんですね、スレッジさん」
「そうかい?」
スレッジが片手を真上に上げると、ペイジ中佐の身体が回転し始めた。
「わ、わ、くそぉ!」
反重力グライダーの出力を最高に設定したペイジ中佐だったが、グライダーが発光するだけで回転を止めることが出来ない。
やがて、発光して回転したまま上空へと飛び上がっていく。
「は、は……」
内心でつい今し方の発言を取り消すアルファ5だった。
14キロ離れた《ポメラニアン》の中で、モニタにかじりついていたデジルは発光体を確認した。
ミサイルにしては少し温度が低いので、光学照準装置に付属の画像解析をかける。
金属の細い管を確認。武器検索――指向性散弾。
「地雷を投げるとは変わっているが……、撃ち落としてやる!」
照準――ファイヤー!
目標消滅。
* * *
「おー。いい腕してんじゃん、デジル」
再び荷電粒子砲の光を見届けたスレッジは、座標0・0・0へと向かう。
飛び去っていくスレッジを、中央情報局と陸軍情報部の両軍兵士たちは敬礼をして見送った。
「ミリィ、ミリィ! 無事だよな?」
地上に到着したスレッジは、ぼろぼろになった装甲車の中で気絶している男女を見た。
「おい……、ミリィ!」
カナと、彼女に肩を借りて上体を起こしているマーク以外、起きている者はいない。
だが、起きているふたりにもおよそ表情というものがない。
「なんだよ」
認めない。俺が無事なのに。
ミリィ。いた。横になっている。
手を触れる。頬をなでる。
「体温が……」
思い出した。フィールドで身を包んだままだ。これじゃ体温を感じるわけがない。
フィールドを解く。
もう一度触れようとした、その手を――
「スレーッジ!」
その手をすり抜けるようにして飛び起きたミリィは、スレッジの胸に飛び込んできた。
続いて、ゲイリー、ユキ、マーチンの3人が起きあがる。
「悪い冗談はよせ! この、お子様が……」
「あれ? スレッジ泣いてる? うれしい♪」
ミリィのぬくもりを心地良く感じたスレッジは、最早ミリィのいたずらを叱る気にはなれなかった。
――子どもなのは俺の方か。完敗だ、くそ。
「よーお、スレッジ! お疲れさん♪」
「お、3万ローエンが来た」
スービィはスレッジの肩に手を置き、低い声で言った。
「ミリィのことはお前さんに任せるが、最後まで責任をとるんだぞ」
「は? 何言って――」
「ミリィは俺の姪。まあ養子だから俺の子だと言ってもいいがな。大事な子だ。3万ローエン相当の、な♪」
ぽかんとするスレッジ。
「スービィてめえ!」
叫びながら“まあいいか”と思ってしまう自分に、先ほどとは別種の敗北感を感じるスレッジだった。
スービィはマークに向かって言った。
「マーク。この先、お前さんにも働いてもらうからな」
「だけどぼくは、あなたたちの邪魔をしました。手足もこの通り、もう動きませんし」
「だけどはなし。お前さんも俺の甥だ。伯父の言うことを聞け」
マークの脳裏に、赤毛の双子を抱き上げる上等なスーツを着た人物の映像が甦る。スービィの本質に触れたような気がしたマークは、はにかんで小さく返事をした。
「……はい」
そこでちらりと後ろを振り向き、やや意地悪そうな笑みを口端に張り付けたスービィが付け加えた。
「手足のことなら心配するな。あっちの目付きの悪いお兄さんが、金より女の子を選んだんでな。3万ローエンもあれば薬無しで両手と両足を動くようにしてやれるぜ」
「てめえ、マジで腹立つ! 人をロリコンみたいに」
喚くスレッジの腕に両腕を絡めたミリィが、彼を見上げる。
「ん、違うの? でも、お金じゃなくってそこに突っ込むあたりがスレッジらしくて好き♪」
口に手を当てくすくす笑うカナのとなりで、ゲイリーは腹を捩らせ豪快に笑っている。
スレッジは口をぱくぱくさせたが、言い返す気力を失って嘆息した。
夕闇迫るネオ・ジップの空は、激戦の名残を感じさせることなくからりと晴れ渡っていた。
〜「スレッジ・チェイサー」 完〜