蒲公英 ~癒しと生命力の花~

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【番外編】 帰り道にて (炎のキースシリーズ) 

( 2008/01/10 23:09 ) Category キース番外編 | CM(0)

 魔法装置騒ぎが一応解決し、アーカンドルへ帰る道中のこと。
 キースは極端に口数が減っていた。
 考え事をしているようにも、ただ単に疲れているだけのようにも見える。いずれにしろ、キースには珍しいことである。
 キースはわざとやったわけではないが、魔法装置を消滅させてしまったことで証拠がなくなったことを残念に思っていた。一行はドレン卿の姿を目撃してはいるが、それだけではアーカンドルが公式にスカランジアを非難することができないのだ。そのことを考えているのかも知れない。
 あるいは、いくらエマーユに治療してもらったとは言え、矢で肩を貫かれてからそれほど時間が経っておらず、それに続く超絶的な戦闘の直後で相当体力を消耗しているのも事実である。歩くのも億劫なほど疲れているのかも知れない。

 しかし。
 実は、キースは別のことを考えていたのだ。
 ドレン卿は、魔法装置を作ったのは土蜘蛛の先祖と決め付けた。
 だがそれは、祭壇を作ってまでブラウニーストーンを封印しようとしたことと矛盾しないだろうか。
 とは言え、土蜘蛛の歴史は長い。今回のように土蜘蛛同士が敵味方に分かれて戦ったことも一度や二度ではあるまい。仮にドレン卿の言うことが正しいとすると、土蜘蛛衆は大昔からブラウニーストーンを利用したい勢力と封印したい勢力とに分かれていたという仮説が成り立ちはしないか?
 もし、土蜘蛛の隠れ里がドロシーのいる場所1つだけとは限らないとするならば……。
 ドロシー、メリク、そしてベルヴェルク。この3人の他にも、この大陸には土蜘蛛の生き残りがいるのかも知れない。
 それよりも。
 この大陸に現存するブラウニーストーンは、キースの体内のもの1つだけだろうか?

 ――まあいいや、今度ドロシーばあちゃんに聞いてみよ。それよりも――

 魔石と言えば、ドレン卿は義眼としてフリズルーンを眼窩にはめ込んでいる。あれは鬱陶しい。なんとか無力化したい。
 だが敵は随分警戒しているだろうし、スカランジアは何と言っても大国である。こちらから軍を使って近付こうものなら、それを理由にして逆にアーカンドルが潰されてしまう。
 また、ドレン卿は軍師に過ぎないので、例えばキースが国家使節として公式訪問したとしても、その場に必ずしも同席する必要はないのだ。ユック王をさしおいて「ドレン卿を出せ」と言うには相応の理由が要る。そもそも、スカランジアとは友好関係にないのでおいそれと訪問できるものではない。

「ああもう面倒くせえ。今は早く帰って寝たい」

 結局アーカンドルに着くまでにキースがしゃべったのは、この一言だけだった。



 黒ずくめ3人衆とともに多くの呪符を失ったこともあり、瞬間移動用の呪符が底をついてしまっていた。帰路は徒歩以外の選択肢がない。スーチェとニディア以外の面々はヴァルファズル王との緊急連絡用のオウムの存在を知っているが、カーム先生がいないのでオウムを呼ぶことができず、迎えを要求する手段がない。オウムを呼べる人物は、ごく限られているのだ。
 ちなみに、この事件を受けて初めて、ヴァルファズルはキースにオウムの呼び方を教える気になったのであった。

 キースの炎で体温を回復したとは言えぐったりとしてしまったバレグ、そして数時間にわたって縛られていたニディアは、バレグが持ってきた薬草により徒歩で帰るのに必要な体力をなんとか回復した。
 スーチェはと言えば、ふらふらと歩くバレグに心配そうに寄り添い、誰かと話をするような雰囲気ではなかった。
 王室警護隊員のふたりはもともと無口。
 ニディアは自分だけベルヴェルクにおぶさるのを恥ずかしがり、歯を食いしばって自分の足で歩いていた。その後ろを歩くベルヴェルクは、娘以外見ていない。

 そんなわけで、まともに話ができる状態だったのはメリクとエマーユのふたりだけだった。
 メリクは10年前の話をエマーユに聞かせていた。

「祖母は土蜘蛛をやめたベルヴェルクさんにブラウニーストーンを持たせはしたが、ほったらかしにしていたのではなく監視を続けていたのだ。それで、私が監視の任についた。だが、当時17歳だった私は土蜘蛛の長を継ぐよりも学者の道に進みたかった。当然ながら祖母は当時、絶対に首を縦には振ってはくれなかった」

 しかし、結果的にメリクはずっと学園に留まっている。
 実はドロシーは、10年前の時点でとっくに土蜘蛛の存続を諦めていたのかも知れない。
 現在のメリクはその素晴らしい研究業績ゆえに、今すぐにでも助教授になるのに充分な資格がある。しかし残念ながら王立学園にはポストに空きがない。カーム先生からは王立魔法院への勤務をすすめられていた。メリクの論文は学会でも高評価で、魔法院のいくつかの研究セクションはいつでも主任研究員としてメリクを迎え入れる準備があるとのことだった。
 メリクにとっては願ってもないことだったが、それを受ければ忙しくなりすぎるためベルヴェルクの監視どころではなくなってしまう。そういうわけで、その申し出をやんわりと断りつつ、彼はあえて王立学園で助手を続けていたのだ。

「10年前、殿下をお城までお運びしたところ陛下は大層お喜びになった。私にも森の民にもお礼をしたいと仰った」

 しかし、ベルヴェルクの監視活動を続けるためにはあまり目立つことをするわけにはいかない。

「そこで、“照れ臭い”というのを理由に、殿下をお運びしたのは私と同じ黒目黒髪のベルヴェルクだということにしてもらった。彼は彼で陛下の腹心のスパイだが、表向きは侍従ということになっているので、国王が侍従に褒美を出すのは妙な話だ。そんなわけで、お礼は森の民だけに贈ることになった。ここからが本題なのだが……」

「?」

 何ごとも淀みなく話すメリクがもったいを付けるのは珍しい。それまで黙って聞いていたエマーユは小首を傾げた。

「森の民には人間の金品など無価値なので、国王陛下の一存で、森の民をアーカンドルの“名誉貴族”とすることにしたのだ」

「あの……。それが何か? この10年間、基本的には相互不可侵というか、あたしたち森の民とアーカンドルの人たちとは付かず離れずみたいな関係を続けてきていると思いますけど?」

 森の民にとって人間の金品が無価値なのと同様に、人間の地位も無価値なのである。

「うむ。他の王国のいくつかは、王族に限らず人間は他の種族と結婚してはならぬといった規則があったりするのだ……。もっとも、ほとんどの国は専制君主制だから、法律など国王が好きに変えられるのだが。しかしアーカンドルの場合は議会の承認なくして法律を変えられない」

 人間は異種族との結婚に消極的……。そういう話ならエマーユも聞いたことはあった。ある国では、風の民と人間が恋をして、いざ結婚しようとしたら風の民からも人間からも居場所を追われ、ふたりだけで遠くへ逃げるように去っていった話。またある国では、水の民と人間が結婚しようとしたところ、どこかに監禁されてしまったという話など。他国には、そういった話がたくさんある。その点、アーカンドルの人々は異種族との交流に関してとても大らかだ。

「アーカンドルの場合はそれがお国柄なのか国王の人望ゆえのことなのか……。森の民を“名誉貴族”にすることについては誰も異を唱える者がおらず、あっさりと議会を通ったというわけだ。これは他国では考えられないことなのだよ」

 エマーユにはまだ話が見えてこない。少しじれったくなってきた。ヴァルファズル王からの森の民に対する“お礼”は結局のところ自己満足だった、ということを揶揄しているのか、この人は? 苦笑混じりに聞く。

「えと、ごめんなさい、よくわかんなくて。だから……何なんですか?」

「殿下ときみは、アーカンドルにおいては誰にも気兼ねなく結婚できるというわけだよ。何しろ、君もアーカンドルでは貴族の一員なのだからね。……これは、ベルヴェルクさんを監視する中で知ったことだが、キース殿下には見合いの話が一切ないのだ。来ても、陛下が全て止めておられる。陛下も、キース殿下のお相手は君だと考えておられるのではないかな?」

 別に王族の配偶者が貴族でなければならないという法律は、アーカンドルにはない。しかし、アーカンドルの貴族たちはただでさえ他国よりもずっと少ない特権に甘んじている。そのため、王位継承権を持つ者が貴族以外の身分の者と結婚するとなれば、全て却下されるとは限らないもののそれなりに厳しい“物言い”がつくのだ。事実、相手は貴族とは言え他国の娘の家に婿入りすることが決まっている第二王子ヘンリーについては、結婚するのは来年だというのに早々に王位継承権を放棄している。

「“森の民は高貴な種族”。それは幼いキース殿下に対し、陛下がそのように話して聞かせてきたことなのだよ」

「あ……!」

 一緒に歩いているスーチェは、話に参加してこない。聞こえているのかいないのか、どうやら彼女はそんなことよりもバレグの方がよほど気になっていたようだった。なにしろドレン卿の“凶眼”に気付き、彼がとっさに突き飛ばしたのはスーチェなのだ。キースもエマーユもメリクも、バレグを取り囲むような形で皆すぐそばにいたのに。



 さて次の日以降、キースとエマーユが連れ立って歩く姿は、ユージュの森の中だけでなくアーカンドルの街中でもよく見られるようになったという。

 蛇足だが、アーカンドルでは夏になると森の民の衣装を真似たものを着る若い女性が増えたのはこの年からのことである。そういう衣装が流行るということはすなわち、アーカンドルの人々は森の民に好意的であることを意味している。
 なお、未婚女性がそれを着ることには“王子のハートを射止めた森の民にあやかりたい”という意味があるらしいのだが、真相は誰も知らない。

~「帰り道にて」 完~




エキサイトブログ公開時に頂いたコメント
Commented by 桜桃 at 2008-01-16 19:54
今頃番外編読ませていただきましたっ!

メリクと王様の好感度が一気にアップ!!
そしてバレグとスーチェ、仲良くして欲しいです~w
キースとエマーユは心配しなくても良さそうw

森の民の衣装のエピソード。
こういう話は良いですね。
物語に非常に厚みができたと私は思います!

復活したら新連載の方も目を通させていただきます。
和やかな番外編、ご馳走様でした^^

Commented by kstation2 at 2008-01-17 12:29
桜桃さん>>
こんにちはっ!!
無記名コメントしちゃってすんませんでした(汗)

なんというか、作者的にはメリクへの思い入れが結構強かったりするんですよ。でも彼、希望通り学者になっちゃうので、今後本編への参加はかなーり控え目になりそうな予感。ちっ(苦笑)

>物語に非常に厚みができたと私は思います!
うひゃ。うれしくすぐったい♪ ありがとうございます、がんばりまっす!

Commented by 銀蛇 at 2008-03-22 23:31
物語の背景がより鮮明になりましたね。
キースとエマーユは……もういいなずけみたいな感じですね。

Commented by kstation2 at 2008-03-23 00:10
銀蛇さん>>
おおっ! 番外編もお読みいただけたとは!
そそ、このふたりはケコーン間近です(多分)
▼追記(18歳未満閲覧危険……嘘ですよ♪)▼
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