蒲公英 ~癒しと生命力の花~

日記ブログ。たまに短編小説を発表。長編小説(別サイト)連載時は更新通知ブログと化す。

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What makes my heart sing? -1- 

( 2012/01/18 23:00 ) Category 短編/お題 | CM(2)

 日没と共に降り出した雪は夜更けを待たずに積もり始めた。しんしんと降り続く雪は、ただでさえ閑静な田舎町をさらなる静寂に塗り込めていく。
 凍てつく夜に好んで外出する住人はほとんどいない。路面の雪には靴跡ひとつなく、街路灯の光を反射して白く輝いていた。
 このあたりは山脈の稜線を間近に望むほどの田舎町。まばらな街灯と少ない民家の窓から漏れる光、そしてかろうじて一軒だけ営業しているコンビニの看板――それら以外ろくな光源がない。少ない光源に照らされる雪面が白く輝けば輝くほど、周囲の闇はいつもより濃く垂れ込めていく。

 不意に、闇が切り裂かれた。一瞬、稜線がくっきりと浮かび上がる。

 再び覆い尽くす闇の中、遠方で音が響く。長く尾を引く雷鳴は、落雷の可能性を窺わせる。
 その音はコンビニでアルバイト中の吉田俊樹の耳にも届いていた。
「ありがとうございました」
 カウンターの内側から笑顔を振りまき、出て行く客を見送った後で俊樹は独り言を呟いた。
「さっき光ったよな。雪起こしの雷か。太平洋側なのに珍しいな……」
 俊樹としては小声のつもりだったが、高校では合唱部に所属していた彼の声は良く通る。自動ドア越しにぼんやりと夜空を見る彼の背後から返事がきた。
「雪起こし? 何、それ」
 高めながら耳に心地良い女の子の声。反射的に「いい声だ」と声に出した俊樹は、振り向いた拍子に声の主であるバイト仲間と目が合った。誰もいない店内でふたりきり、女の子と真正面から見つめ合う格好になった俊樹は、落ち着きのない視線を左右に泳がせてしまう。
「あ、いや……。ごめん、鈴木さん」
「花蓮って呼んで。あたしだけ俊樹って呼んでるのに、なんか不公平だよ。同じ大学の一回生同士なんだし」
 目を逸らさずに言う彼女は、微笑んだ拍子に栗色の前下がりボブをかすかに揺らした。小さめの顔に大きな瞳というのは好き嫌いの分かれるところだろうが、鳶色の澄んだ瞳には相手を吸い込む魅力がある――俊樹は秘かにそう評価している。
「人と話をする時は目を合わせなよ。客商売の基本だぞ」
 その言葉に、俊樹は再び花蓮と目を合わせた。今、彼女は大きな瞳を左右非対称に細め、頭一つ低い位置から視線を突き刺している。ただ、わざとらしく唇を突き出しており、不満そうな声には冗談めかした柔らかい響きが含まれていた。姿勢良く腰に手を当てている様子と相俟って、とても愛らしい仕草だ。
 緩む頬を引き締めるため、俊樹は軽く頬を叩きながら返事をした。
「ごめん、女の子を下の名前で呼び捨てにするの苦手なんだ。それにバイト中はあんまりそういうのは――」
 そんな彼の様子をどう受け取ったのか、花蓮は口元に手を当てくすくす笑う。
「ここ田舎だからそんなこと気にするお客さんいないって」
「そういえば鈴木さんは初対面の時から俺のこと呼び捨てにしてたね。いや、高校の時にはそんな経験なかったから新鮮なだけで、全然嫌な感じはしないんだけどね」
「一目見て、俊樹とは気が合いそうだと思ったの。あたしのことも名前で呼んでもらえると嬉しいなと思って、先に呼び捨てにしちゃった」
 だって俊樹のことが好きだから――などと、続くはずもない一言を脳内で追加した俊樹は、己の厚かましさに頬を赤らめる。返答に困っている俊樹の内心を知ってか知らずか、花蓮は話を元に戻した。
「……それで、雪起こしって何」
 雪起こしとは日本海側の雪の多い地方に見られる現象で、真冬の雷を指す言葉である。大雪の前触れとされているが、科学的に因果関係が証明されたわけではない。
「ふうん。あたしの地元はここだけど、俊樹って雪国の人なんだ。じゃ、これから大雪になるのかな」
「どうかな。ここは太平洋側だし、ほとんど積もらないうちに雪も止んでいるし」
「そっか。五センチかそこらなら、俊樹にとっては積もったうちに入らないんだね」
 今夜はクリスマスイヴ。田舎のコンビニとは言え、夕方まではクリスマスケーキの予約客などでそれなりに込んでいた。しかし、雪が積もったことで客足が遠のいている。午後十時の閉店時間まで残り一時間を切った。今夜はもうお客さんが来ないかも知れない。
 そんなわけで雑談に興じていた二人だったが、俊樹はふと店内の時計に目を留めた。
 おかしい。閉店まで三十分を切っている。どのシフトの時でも開店後と閉店前の一時間ずつは店にいるはずの店長が、今日はまだ姿を見せない。
「いいじゃない。店長だって雪でお店に来るのが億劫なのかも知れないし。店長の家知ってるから、店閉めた後で鍵を届ければいいし」
「そういえば鈴木さんの方がここのバイト長かったね。前にも施錠したことが?」
 花蓮は事も無げに「あるよ」と答えて微笑んだ直後、ひとつ瞬きをして表情を凍り付かせた。
 店内に影を落とすほど外が明るく光ったのだ。
 ひと呼吸の間を置いて、雷鳴が鼓膜に突き刺さる。地響きさえ伴うほどの轟音だ。
 俊樹の胸に栗色の物体が勢いよくぶつかった。かろうじて踏ん張った彼の鼻孔をほんのり甘い香りがくすぐる。
「あ、ごめん」
 花蓮は謝ると、すぐに身体を離した。彼女から目を逸らした俊樹は、不自然に持ち上げていた手で後頭部を掻きつつ天井を見上げ、ばつが悪そうに照れ笑いをしていた。

 その後、閉店まで客も店長も来ることはなかった。
「壊れてるのかな。呼び出し音もしないの」
 施錠と消灯を済ませた俊樹がスタッフルームに入るなり、花蓮がそう声をかけてきた。閉店の報告をしてから鍵を届けるため、彼女が店長宅に電話をしていたのだ。
 すでに店の制服から私服の白いフェイクファーコートに着替えていた彼女を見て、俊樹は内心で雪うさぎのイメージを重ねた。女の子の服装は褒めるべきだろうか。迷ったのも一瞬、適切な褒め言葉を選ぶスキルがないことに思い至った俊樹は、無言で自分の携帯電話をポケットから取り出した。
「店の固定電話がおかしいのかも。それなら携帯で……あれ。圏外だ」
 花蓮も自分の携帯を取り出すと「あたしのも」と呟いた。
「どうしよう。いつも親に迎えに来てもらうのに」
「送ってく送ってく。俺の車で」
 つい繰り返してしまった俊樹は顔を赤らめて横を向き、「迷惑でなければ、だけど」と小声で付け加える。
「迷惑なわけないじゃない。むしろお願いします。こんな日にバイトしてるくらいだもの……」
 『こんな日』とはクリスマスイヴのことだろうと当たりをつけ、続く言葉を脳内で補完しかけた俊樹は、あわててその考えを追い出した。相手は学部が違うため大学でも滅多に顔を合わすことのない、まだつきあいの浅い女の子だ。あまりプライベートな部分に踏み込むわけには……。ついぼんやりとしてしまった俊樹に、花蓮が微笑みかけてきた。
 花蓮としては苦笑のつもりだったかも知れない。しかし、俊樹にとっては間近で花が開いたかのようで、眩しげに眼を細めた。
 直後、ふと思案顔になった俊樹が言う。
「ところで親御さん、ここの閉店時間ご存知だろ。連絡せずに帰ったとして、行き違いになったりしないかな」
「ああ、その点は大丈夫。時計なんて気にしてないから、あたしが電話するまで寝てるのよ。さすがにお酒は飲まずにいてくれるけど」
 あっけらかんと答える花蓮に対し、俊樹は口を開けたまましばらく固まってしまった。
「まるでウチの親みたいだな。年頃の娘を持つ親御さんにしては珍しくないか、それ」
「良家の子女ならいざ知らず。あたしん家みたいな中流階級、女の子の親も男の子の親も似たようなものよ。多分」
 立ち上がった彼女は俊樹に顔を向けたまま店員通用口に向かい、申し訳なさそうに付け加える。
「ごめんね俊樹、店長のお宅にも寄ってもらわなきゃなんないから、帰るの随分遅くなっちゃうね」
 言い終えると同時に押し開けた扉の隙間から、強烈な光が射し込んだ。
 回れ右をした花蓮は真正面から俊樹に飛びついてくる。
 まばたき一つの間を置いて、天が落ち地が割れるかのような音が轟いた。
 花蓮は小さな吐息を漏らし、肩をふるわせた。悲鳴を上げるには吸い込んだ空気が少なすぎたのだろう。
 自分の胸でふるえる同い年の異性、その口からはか細い吐息。彼女に自覚があるかどうかはさておき、その仕草の色っぽさは俊樹の脳をとろけさせるに足る破壊力を有していた。
 跳ね上がる心臓の鼓動を隠しきれない俊樹は「ごめん。今のは俺も恐かった」と呟き、視線を天井へと逃がしつつも花蓮の背をさするのだった。

   *   *   *


 

Copyright © 2008-2012 いき♂@蒲公英 . All rights reserved.
いき♂さん、ご無沙汰しております|ω・`)コソ

こちらのお話、ドキドキワクワクしながら、手にとらせていただきました!
世界の破滅‥‥が近いんですよね?
二人の初々しい関係とは対照的な暗澹たる終末が、これからどう展開していくんだろう、と楽しみです♪

ところで、コンビニなのに閉店時間があるのは、やっぱり田舎だからですか?
実は田舎っぺの私の地元のコンビニも、昔は朝8時~夜11時までだったんですよ。
細かいところまでちゃんとリアルを追求してるんだな~と、妙にいい発見をした気分でした。

また明日、続きにお邪魔いたします♪
ではでは。
[ 2012/01/22 22:21 ] [ 編集 ]
こんにちはぁ^^

> こちらのお話、ドキドキワクワクしながら、手にとらせていただきました!
ありがとうございます!

> ところで、コンビニなのに閉店時間があるのは、やっぱり田舎だからですか?
ええ、ネットで検索して、10時で閉まる地域があることを知り、そのあたりを舞台に設定しました。
とはいえあくまでフィクションです。また、検索にヒットした地域が今現在も10時閉店なのかはわかりませんw

> また明日、続きにお邪魔いたします♪
本日、というか24日午前0時、完結編の第5話を投稿する予定です。
飽きずに最後まで読んでいただけることを目指し、ぎりぎりまで改稿いたします。
[ 2012/01/23 18:34 ] [ 編集 ]
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