蒲公英 ~癒しと生命力の花~

日記ブログ。たまに短編小説を発表。長編小説(別サイト)連載時は更新通知ブログと化す。

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What makes my heart sing? -3- 

( 2012/01/20 22:49 ) Category 短編/お題 | CM(0)

 車に乗ってからしばらく、誰も何もしゃべらなかった。それというのも、慌てすぎてハンドル操作を誤り、雪道で立ち往生する連中が後を絶たなかったからだ。
 そんな中、ジョニーは神がかったハンドル操作で先を走る車の脇をすり抜け、あっという間に他の車がほとんどいない通りまで走破してしまった。
 後部座席で肝を冷やす俊樹たちを尻目に、マリーは平然とカーラジオのスイッチを入れる。顔を後ろに向け、話しかけてきた。
「ちなみにあたし、茉莉。ジョニーの娘で小六よ。茉莉でもマリーでも、好きな方で呼んで」
「あたしは鈴木花蓮。彼は吉田俊樹でふたりとも大学一年よ。ねえマリー。お父さんっていつもこんな運転なの?」
「ご想像にお任せするわ、花蓮」
 花蓮はほんの一瞬虚空を見上げたが、すぐにマリーへと視線を戻した。
「……この話題はやめておくわ。マリーは恐くなかった? あのUFO……。あたしは恐くて、しばらく声も出せなかった」
「あたしらはロッカー。歌えればそれでいい。そんで、生活にスリルがあればもっといい。今夜はなかなかスリリングじゃない。充分楽しいわ」
 迷いなく言い放つマリーの横で、ジョニーはニヤニヤしながら運転している。
「あ、そう……」

 その後、花蓮が告げた彼女の自宅へ車を向かわせようとしたジョニーだったが、UFOどもを避けられそうな迂回路は全て、事故車や渋滞などで塞がれている有様だった。
「携帯は使えねえけど固定電話なら連絡できるかも知れん……と言っても、どこまで走っても見あたらねえな、電話ボックス。こりゃ、最悪の場合朝まで車中泊ってことで」
「構わないわ。朝帰りしたからっていちいち目くじらたてるような親じゃないもの。……あ、朝帰りって言っても女友達とカラオケオールナイトとかそんなのばっかりだけどねっ」
 なぜか窓の外へ視線を逃がしながら言う花蓮。落ち着かない様子の彼女と、その横顔をちらちらと盗み見る俊樹を交互に眺め、マリーはにやにやしていた。
 後部座席と助手席の様子に気付いた風もなく、ジョニーが気軽に言う。
「車中泊なんて冗談さ。二人とも、いざとなればうちに泊まればいい」
 礼を言う大学生たちに被せるように、マリーが話しかけてきた。
「俊樹ってロッカーなんでしょ。さっきジョニーがそう言ったわ」
「俺は高校の時合唱部にいたから歌は好きだけど、特にロックが好きってわけじゃないよ」
 そう俊樹が答えると、ジョニーが割り込んできた。
「あんたは立派なロック魂を持ってるぜ、トシ」
「ト……トシ?」
「聞いてたぜ。さっき、『恋人を置き去りにするのか意気地なしめ』ってさ。それも、自分の車を盗った相手に。しびれるじゃねえか」
「しびれる?」
 目を眇めて聞き返す俊樹に、マリーが解説してくれた。
「死語よ。それも、ジョニーが生まれる前の。感動したことを表す言葉だそうよ」
「あ、そう……」
 知らず、つい先程の花蓮と同じように脱力した返事をする俊樹。
 その時、ジョニーは鋭く細めた目でカーラジオを睨みつけ、「しっ」と声に出して会話を制した。
『……政府特別緊急放送です。本日午後十一時現在、我が国は緊急事態に対応するため超法規的措置を実行しております。日本全土に戒厳令が発令されました。国民の皆さんには許可無き外出を禁止します。現在我が国は何らかの事故またはその他の要因により、インターネット・地上デジタル等の情報インフラを寸断され、政府広報はアナログラジオ放送に頼らざるを得ない状況です。諸外国との連絡も途絶しております。いずれ続報をお伝えします。今後しばらくの間、ラジオでお伝えする情報に従って冷静に行動してください。この厳しい状況への対処は自衛隊を加えた政府特別対策チームにて行います。対策チームには即時発砲を含む超法規的措置が適用されます。国民の皆さんはくれぐれも外出しないように。繰り返します。政府特別緊急放送……』
 同じ文言ばかりが繰り返し放送されている。沈黙が支配する車の中、まずジョニーが声を出した。
「ふっ。くくくく」
 マリーがそれに続く。
「うふふ。あははは」
 笑う二人を交互に見た俊樹は、尖った声を出す。
「これはとんでもない事態ですよ。何がおかしいんですか」
「そうですよ。政府は既にUFOに気付いてて、自衛隊を含めて対処に乗り出してるってことでしょ。早くどこかの建物に避難しなきゃ」
 花蓮も焦った声を出すが、ジョニーは意にも介さない。
「わかってねえな、トシもレニーも」
 レニーとは花蓮のことであるらしい。前方を見たまま話すジョニーの声は、心なしか低めになっていた。
「今の放送、携帯のけの字もなかったよな。トシが気付いたこと、政府はともかく自衛隊が気付いてないと思うか?」
 ジョニーの真意がわからず、俊樹と花蓮は後部座席で互いに顔を見合わせた。振り向いたマリーは笑みを浮かべたまま告げる。
「俊樹も花蓮もしっかりしてよ、あたしより歳上なんだから。日本の政府ってば、何かコトが起きるととにかく情報収集とか言いながら絶望的なくらい初動が遅いでしょ。それが何故今回、こんなに素早いのかしら」
 マリーの説明を受けて目を見開く俊樹に対し、花蓮はもの問いたげな視線を向けた。彼女にもマリーにも視線を合わせず、俊樹は虚空を睨むようにして自分の考えを述べる。
「海外の緊急事態についての第一報をマスコミ報道で知るような無能政府にしては、確かに今回の動きは早すぎる。ネットと地デジがダメでもラジオなら大丈夫と気付き、あまつさえ超法規的措置の決断まで済ませている……有り得ない。つまり」
「そうよ。あのUFO連中による偽装放送か、政府そのものが乗っ取られたか。そんなところじゃないかしら」
 笑みを消し、声を低めて言い放つマリー。
「は……。だめだ、笑えない」
 続けようとした言葉と一致する内容をマリーの口から聞かされ、なおも笑い飛ばそうとした俊樹だったが、彼にはお手上げのポーズをしてみせることしかできなかった。
「待って待って」と花蓮が割り込む。「政府はもっと前からUFOのことを知ってたとは考えられない?」
「ああ、知ってただろうさ」
 ジョニーはさも当然とばかりに花蓮に返事をし、考えを述べる。
「知ってたとしてもこれほど迅速に強硬な対抗策を講じられるようなリーダーシップは持ち合わせちゃいねえ。だから、本物の政府による放送とは限らねえ。少なくとも、今すぐこの放送の内容を鵜呑みにするには早いというのがオレの考えだ」
 ジョニーは一呼吸置いて「さて、どうしたもんかな」とあくび混じりに呟いた。弾かれたように反応した花蓮が裏返った声を立てる。
「まさか! UFOに立ち向かおうとか言うんじゃないでしょうね、ジョニーさん」
 ちらと聞いた本名を思い出せず、つい渾名の方で呼びかけてしまった花蓮。今ひとつ締まらない空気の中、飄々とハンドル操作を続けるジョニーは、彼女の言葉をあっさりと否定した。
「するわけないさ、レニー。さっきの攻撃はオレもこの目で見た。あんなもん、銃で立ち向かっても敵いっこないぜ。どうしたもんかなと言っておいて何だが、オレたちゃロッカー。やることは一つだ」
 再び後部座席に背を落ち着けて顔を見合わせる俊樹たちに対し、振り向いたマリーは顔を傾けてウインクして見せた。
「歌うだけよ」
 あっけにとられた俊樹たちが絶句すると、そのまま会話もなくなった。
 それから十分ほど無言で運転を続けたジョニーは、一軒のライブハウス前で車を停めた。
「ここで歌うんですか、ジョニーさん。もうこんな時間だし、開いてないでしょう」
 車を降りて向かい合うジョニーと俊樹の間を、黒髪をなびかせてマリーが横切っていく。男たち二人の胸元までしかないその背丈を見て、俊樹はようやく彼女が小学生である事実を思い出していた。
「ジョニーはここのオーナーなのよ。で、二階があたしたちの住居」
 告げるマリーの手には鍵が握られていた。

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