蒲公英 ~癒しと生命力の花~

日記ブログ。たまに短編小説を発表。長編小説(別サイト)連載時は更新通知ブログと化す。

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What makes my heart sing? -4- 

( 2012/01/22 02:18 ) Category 短編/お題 | CM(0)

 飛び散る汗がスポットライトを反射して輝く。フォグに包まれたステージ上でジョニーが身体を折り曲げる。自らかき鳴らすギターの音色は本格的だ。
 演奏しているのはどうやらオリジナルだが、雰囲気は衣裳同様八〇年代の曲調だ。まさに――。
「シャウトが炸裂する……という表現がピッタリだな。古いけど、古くさくはない」
 爆音とも呼べる演奏の中、俊樹の呟きは隣にいる花蓮の耳にも届かない。
 いつの間にかジョニーの隣に寄り添ったマリーが、澄んだ声を張り上げる。彼女の高い声はジョニーの太い声と意外にも相性が良い。無理に大人びた歌い方はしていないし色気と呼ぶべき雰囲気も醸してはいないが、マリーの歌声は古い雰囲気の曲に華やかな彩りを加えた。
 親子の歌声に耳を傾けながらも俊樹は、目だけを隣に向けて(一緒に歌いたいな、花蓮と)と胸中に呟く。
 一曲歌い終えたジョニーに感想を求められ、俊樹は言葉を選びつつ答えた。
「ロックのことはよくわかりません。正直言うと新しさは感じませんが、かっこいいとは思いました。マリーはとても良い声です。歌い方の基本がしっかりしてて、特に高い声が良く伸びますね。俺としては、マリーに讃美歌を歌って欲しいと思いました」
 ジョニーは満足げに頷くと、満面に笑みを湛えて俊樹の背中をばんばん叩いた。
「うれしいぜ。よーし。オレの演奏でよければ全員で讃美歌を歌おうぜ」
「全員!? 待って待って、あたし讃美歌わかんない」
 慌てる花蓮に、ジョニーは親指を立てて見せた。
「讃美歌って言ってもオレが演奏できるのは『きよしこの夜』とか『もろびとこぞりて』とか、誰でも知ってる奴だけさ」
「それって讃美歌だったのね。ならあたしにもわかります」
 ジョニーによるギターの音量を抑えた伴奏のもと、四人での合唱が始まった。
「思った通り。花蓮の歌声、すっごく素敵……」
 ジョニーが挙げた二曲を歌い終えたところで、マリーがそう呟いた。それを聞きとがめ、すぐにジョニーが窘める。
「こらマリー。トシの台詞を奪うんじゃない。聖夜に恋人たちの邪魔はするもんじゃないぜ」
「げふっ」
 ジュースを飲んでいた俊樹がむせた。
「なにやってんのよ俊樹」
 背をさする花蓮に手をあげて感謝を示すと、俊樹は「マリーに台詞とられたよ」と言って微笑んだ。姿勢を正して彼女の正面に立つと、相手の目を真っ直ぐに覗き込む。
「な……なに」
 心持ち頬を赤らめる花蓮の前で深呼吸し、告げる。
「俺たちただのバイト仲間だし、外でUFOが暴れ回ってる時に言うことじゃないかも知れないけど。一緒に歌ってみて、はっきり感じたんだ。花蓮。キミと一緒に……。もっと歌いたい!」
 言い切った直後、出しかけたくしゃみが途中で止まったような表情を見せる俊樹。
 バランスを崩して今にも転びそうなふりをしたマリーが声に出して「ずるっ」と言い、俊樹を睨む。
「まだ恋人同士じゃなかったんだ。……もう、焦れったいなあ。だったら言う言葉が違うでしょ、俊樹」
 ギターを鳴らしてマリーを遮ったジョニーが、娘に対して「物事には段階ってもんがあるのさ」と諭す。
 俊樹と花蓮の様子に視線を走らせたジョニーは、娘の手を引いて静かにステージを降りた。
 今や、花蓮の頬は真っ赤に染まっている。
「もちろんよ。言ったでしょ、俊樹とは気が合いそうだって」
 直前にマリーが入れた茶々は、なかったことにするつもりのようだ。
 少し左右に視線を逃がしつつ、ちらちらと様子を窺う俊樹。
 俯き、ときどき上目遣いに、やはりちらちらと様子を窺う花蓮。
 ふたりは申し合わせたようにいったん視線を下げ、再びお互いの視線を真正面から受け止める。そして深呼吸し、どちらからともなく口を開こうとした、その途端――。

 破裂音。風船が割れる音を耳許で聞かされたかのような錯覚に襲われ、場の全員が首をすくめる。

「全員手を挙げろ。貴様等には国家反逆罪の疑いがある」
 硝煙の臭いと共に、制服姿の男たち四人がライブハウスに乱入してきた。
「なんだお前ら。旧日本軍?」
 さりげなく三人をかばう位置に移動していたジョニーは、手を挙げながらそう呟いた。
 ジョニーが言う通り、乱入した男たちの制服は自衛隊のものではなく、戦争映画に出てくるような古めかしい制服だ。抱えている武器も三八式《さんぱちしき》歩兵銃――銃口前方下部に刃渡り三八センチの剣を備えた銃剣――である。
 先頭の兵士だけは他の兵士と違い、袖口にラインがある。おそらく指揮官と思われるその男が、ジョニーの疑問を無視して大声で告げる。
「我々政府特別対策チームには即時発砲の権限がある。貴様等容疑者は、本来であれば遅滞なく射殺の刑に処すべきところ、今しばらくの猶予をくれてやる」
 ジョニーは挙げた手を後頭部で組むと、呆れた声で聞き返す。
「いろいろと突っ込みたいところだが、その前に。オレたちが一体何をしたってんだ」
「とぼけても無駄だ。貴様等が歌っていたのはわかっている。周辺住民からの密告があった」
 見開いた目を細めたジョニーは、気の抜けた声で「それがどうした」と呟いた。
「ふむ。どうやら貴様等、ラジオを聞いていないようだな。よかろう、教えてやる」
 指揮官は胸を張ると高らかに宣言した。
「我々はノエルスフィア星人である。貴様等地球人との共存を目的にやってきたのだが、このたび事情が変わった。急遽日本政府を乗っ取らせてもらったので、以後日本国民は我々の指示に従ってもらう」
「あーそー」
 組んでいた両手で後頭部をぽりぽりと掻き始めるジョニー。彼は、前に出ようとする俊樹に気付き、視線で制した。
「信用するもしないも自由だ。ただし、行動の自由を与えるわけにはいかない」
「それで、宇宙人さんよ。オレたちをどうしようってんだ」
「何、難しいことを要求するつもりはない。ただ、今後は歌を歌わないことを誓ってもらい、それを守ってもらうだけでいい」
「……はぁ? 意味がわかんねえ」
 指揮官以外の三人の兵士が一斉に銃を構えた。いずれの銃口もジョニーに向けられている。
 それらを手で制した指揮官は、ジョニーたちに対して賞賛とも呼ぶべき眼差しを向けた。
「ほう。貴様等日本国民に何かを強制するにはこの姿が一番だと思っていたのだが、例外がいるようだな」
 黙っているジョニーたちの周囲をゆっくりと歩いた彼は、両手を腰の後ろに回して胸を張り、再びジョニーの正面で足を止めた。続けて、軽く笑みさえ含んだ声色で穏やかに告げる。
「これは取引だ。我々とて無闇に地球人を殺戮したいわけではない。相応の交換条件を用意し、それを日本政府が飲んだというわけさ。よって貴様等日本国民どもには選択権はない」
 ジョニーはぎり、と歯を鳴らす。
「オレたちから歌を奪う、だと。どんな交換条件なんだ」
「せいぜい百年しか生きられない貴様等地球人、いや日本人の寿命……それを倍増する。これにより人口問題・食糧問題・エネルギー問題などが一層深刻化するが、それらの解決策として我々の母星の技術を提供する」
「ほう」
 ジョニーの額に青筋が浮いている。
「随分と気前の良いことだ。そうまでしてオレたちから歌を奪うメリットは何なんだ」
「これ以上のことを教えるつもりはない。嫌ならこの場で射殺する。歌を歌うそぶりを見せるだけでも射殺する。さあ誓え、歌を歌わないと」
 指揮官を含む四人の銃口が構えられた。
 ジョニーは一度、背後を振り向く。
 歌えないまま、いや、たとえ自ら歌えないとしても誰の歌も聴けないまま寿命だけが倍増する――そんな生き地獄、世界の滅亡と同義じゃないか。
 俊樹は花蓮と頷き合い、マリーとも頷き合うと、ジョニーを真っ直ぐに見て大きく首を縦に振った。
 ジョニーは謝罪するかのように一度目を閉じると再び前を向いて兵士たちを睨み付け、告げる。
「嫌だ。誓わない」

 膨れあがる殺気。
 後悔なんかしないぞ、ジョニーと同じ気持ちだ。兵士達を睨み付ける俊樹。彼の視界正面を遮るように、ジョニーの背が彼らをかばう。
 自分とそんなに変わらないジョニーの体格。俊樹はその背中をやけに広く感じていた。その背をマリーが右手で掴み、左手を花蓮と繋いでいる。
 いつしか俊樹の右手は、花蓮の左手をしっかりと握っていた。
 このまま死ぬのか。
 最期はせめて胸を張り、このくらい大きな背を見せて。ジョニーの位置に立っているのが俺だったら――そう思った途端、俊樹は声を張り上げる。
「花蓮! キミと――」
 破裂音。兵士達の銃口が火を噴いた。

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